研究課題
若手研究(B)
本研究の目的は、土地利用規制における協議・協定手法を公法学的観点から考察することである。研究開始初年度にあたる平成24年度は、開発負担(公共施設の整備負担)をめぐる日米比較を行った(研究発表欄・雑誌論文④が該当)。日本においては、要綱に基づく行政指導への批判が行政手続法(条例)の制定に結実した要因の一つであることはよく知られている。他方、同時期のアメリカにおいては、1980年代後半以降の一連の連邦最高裁判決により自治体が開発者に求める開発負担に対して一定の制約が課され、その制約を回避する形で自治体と開発者との間で開発負担協定が締結されるという実務が広がった。これは、開発者が公共施設の整備負担の義務を負う一方、自治体は開発者の投資を保護するため一定期間土地利用規制を変更しないことを内容とするものである。本研究においては、画一的・固定的な法規制と、交渉や協議による個別的で柔軟な秩序形成を分析軸として、自治体レベルにおける交渉型行政運営の法的諸論点を検討した。それは、「規制権限の取引」との関係、「違憲の条件付け(負担)」との関係、「公衆参加・透明性」との関係である。本研究に残された検討課題としては、第一に、契約・協定締結に至る交渉・協議過程のみならず、権力的作用の前段階としての交渉・協議過程への着目、第二に、国レベルの法原理とは異なる、自治体行政の特質に着目した法原理の探究、第三に、交渉・協議過程において生じうる違法な行政活動に対する司法的統制の可能性が挙げられる。今後は、私人間の合意に基づく協定手法をも視野に入れながら、「合意による行政」の研究の理論的深化を図る必要がある。なお、本研究に関連する研究成果として、判例評釈と論文紹介がそれぞれ1件ずつある(研究発表欄・雑誌論文②、同③が該当)。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、アメリカ法を中心に、判例やローレビュー掲載論文等を渉猟し分析を行い、年度末には専門研究誌において研究成果の一部を公表した。次年度における研究成果のとりまとめに向け、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。
これまでの研究はその対象をやや限定しすぎていた面があり、今後は研究の精度を損ねることのないよう留意しつつ研究対象を拡張し、これにより意義のある理論的視座または新たな分析の枠組みを提示できるよう工夫を重ねていきたいと考えている。
本年度は行政契約の分野を中心とした文献の収集にとどまったが、次年度はインフォーマルな行政手法や行政手続の分野をも視野に入れて文献収集を行いたいと考えている。
すべて 2013 2012
すべて 雑誌論文 (4件)
行政法研究
巻: 2号 ページ: 65-112
Journal of Public Policy Review
巻: Vol.8, No.1 ページ: 45-66
自治研究
巻: 88巻10号 ページ: 124-137
アメリカ法
巻: 2012-1号 ページ: 139-143