本研究は、日本において現在進行している社会的排除の問題への処方箋を探るべく、先行して同種の事態が進行しているアメリカ合衆国に光を当て、そこにおけるマイノリティの社会的排除の実態とそれに対する憲法学の対応とを分析・検討しようとするものであった。合衆国では、直近である2014年にも、これまで人種行政に積極的であったミシガン州において成立したアンチ・アファーマティヴ・アクションの憲法改正(2006年)を合憲とする連邦最高裁の判決がくだされており、この領域における動きが著しい。そのため24年~25年度には現地調査を含む資料収集等を行ってきたが、26年度には、国内で開催された研究会に計5回出席し議論を深めるとともに、研究課題に関する主としてアメリカ合衆国において出版された書籍の検討を行った。 1960年代にはアフリカ系アメリカ人が人種差別問題の象徴的存在であったが、今日における人種差別問題は一層複雑になっている。とくにアジア系やヒスパニック系など多様なマイノリティ集団が登場したことで、これまでのアファーマティヴ・アクション政策が有効に機能しない領域が登場したり、マイノリティ集団間での利害対立を逆に増幅させるといった事案もみられる。また、1990年代以降のアファーマティヴ・アクションへの逆風の背後には、リーマン・ショック以降の財政状況を指摘する声や、相対的な連邦政府の役割の低下を指摘する声もある。司法はこの種の問題について、従来確立されてきた司法審査の枠組みを基本的に維持しつつ判断を下してきているが、それが現状の十分に切り取りうるものなっているとは言い難い。複雑化した問題を適切に判断する新たな枠組みの構築が求められる。
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