2013年度は、研究のまとめとして、日本における議論を中心に各種の検討・考察を行った。具体的には、第一に、日本の判例法理の整理と検討を行った(主な研究成果として、「生活保護老齢加算廃止訴訟上告審判決」、「いわゆる老齢加算廃止違憲訴訟に関する意見書」の執筆、公開がそれに当たる)。第二に、第一の検討を踏まえつつ、アメリカにおける議論と比較しながら、制度後退禁止原則について検討したものとして、憲法理論研究会において「福祉・『平等』・憲法」と題して学会報告を行い、その報告に加筆したものを『変動する社会と憲法』に寄稿した。第三に、第二の検討も踏まえつつ、制度後退時に「平等」との関係も問題となることから、「日本国憲法14条と社会福祉の関係についての一考察」において、より「平等」と生存権について深く検討を行った。第四に、「日本における社会権ー生存権と労働基本権を中心にー」において、生存権に関する立法裁量と制度後退禁止原則についての総合的な検討を行った。第四の論考を寄稿した書籍は、近日中に公刊される予定である。 これらの検討を通じて、生存権に関する立法裁量と制度後退禁止原則について、以下の結論を導出した。即ち、社会保障(福祉)法は、附則で将来的な見直しを規定する場合があることにかんがみ、少なくとも3度の改正の機会(最大で約15年の時の経過、衆参両議院の複数回の国政選挙)を乗り越えた規定は、単なる法的地位を脱し、制度後退禁止原則の射程が及ぶ地位を獲得するとの試論を示した。また、生活保護制度は、すでに最下限の手当てを行っていることから、その制度をさらに立法によって後退ないし廃止することは憲法25条に照らして、許されないとの結論を示した。
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