平成26年度の研究目的は、第一に、ドイツの連邦憲法裁判所の判例において言及され、学説において活発に議論されている「デジタル基本権」の構造をまとめ、日本法への示唆を得ること、第二に、デジタル化時代におけるメディアの自由の意義について総括すること、にあった。 第一の目的については、昨年度執筆した論文「デジタル基本権の位相」を加筆修正したものを公刊するとともに、そこで得た知見を踏まえて、近年、日本において論点となっているインターネットにおける通信の秘密の意味とあり方を整理する論文を公表することができた。 具体的には、次の通りである。近年の日本の通信実務と一部の学説は、インターネットの安全性を実現する上で重要な役割を担っているインターネット媒介者が通信データを活用できるようにするため、通信の秘密の保護領域を限定すべきであるという見解を主張している。この見解に対して、本研究は、ドイツにおけるデジタル基本権、通信の秘密、情報自己決定権の関係を整理することにより、電気通信事業者は、法律上、「通信の秘密の保護」と「差別的取扱の禁止」により、通信の伝達のみに関わっていれば足りると考えられてきた日本の「基本設計」こそが、憲法上要請されているものと結論づけた。 以上の研究は、前述の通り、昨年度の研究を基礎にしている。ただし、ドイツで定着している情報自己決定権を自己描出権の観点から再構成している近時のドイツの議論を分析し、その構造と通信の秘密、デジタル基本権のそれを比較検討することにより、インターネットにおける基本権保障のあり方についての基礎を明らかにできたのではないかと考えている。 第二の目的については、マスメディアの自由の内実である国民の知る権利論の問題意識を共有しつつ、社会的認知論とデジタル認知論を基礎にしたメディアの自由論を構築する視点を出すことができた。
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