現代国際法における責任解除(賠償)の基本原則である「完全賠償原則」を包括的に研究した。第1に、理論的根拠として、PCIJのホルジョウ工場事件判決(1928年)を分析した。当該判決において示された「懲罰性」概念に基づく責任論(Anzilottiの混合責任論)を分析し、当時、責任論の形成期における国際法概念の特殊性を明らかにした。 第2に、その後の変遷を辿る作業を行った。とりわけ、国連国際法委員会(ILC)が法典化作業を通じて明らかにした賠償概念を分析し、そこで採用された賠償理論が「均衡性」概念に基づく複合賠償制度であることを明らかにした。この「懲罰賠償論」と「均衡賠償論」(複合賠償論)の間には、賠償の理論的基礎づけに関して根本的な相違が見られる。 第3に、こうした変遷を跡付ける概念として、法的損害(侵害)による損害の抽象化という傾向、実体法と手続法の関係の密接化(中間形態である救済remedy概念)も分析したが、この最後の点については、今後の検討課題として残っている。
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