研究課題/領域番号 |
24730045
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中野 妙子 名古屋大学, 法政国際教育協力研究センター, 准教授 (50313060)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | スウェーデン / 社会保障法 / 社会サービス |
研究概要 |
平成24年度は、スウェーデンの生計扶助制度の仕組みをその受給要件、支給水準、受給者の就労意欲への配慮、受給者の動向といった観点から明らかにすることに取り組んだ。当初の研究計画では、最低保障年金制度の研究から取り組むことを予定していたが、我が国において社会保障・税の一体改革が進行する中で、最低保障年金導入案の実現可能性が大幅に弱まった。他方で、生計保護受給者の増加に伴い、不正受給の問題への世論の注目、生計保護基準の引下げ論など、生活保護をめぐる議論状況が激化し、これに対して比較法的観点から貢献する必要性が増した。そのため、研究計画を一部変更したものである。 平成24年度の研究成果として、スウェーデンの生計扶助の以下の特徴を明らかにしたことが挙げられる。(1)生計扶助の受給には、我が国の生活保護法4条と同様に、資産・能力・他施策の活用が要求される。特に能力の活用は行政実務・裁判実務の双方において厳格に要求され、行政が指示する就労支援策への参加も能力の活用に包括される。(2)生計扶助の給付水準は、最低生活水準ではなく「正当な生活水準」とされ、理念的にはわが国の生活保護よりも高く設定されている。しかし、国が定める生計扶助の基準が政策的に抑制されてきたため、最低保障に近付いているとの批判もある。(3)厳格な補足性の要件を定めるにもかかわらず、生計扶助の受給率はわが国の生活保護の保護率よりもかなり高い。ただし、スウェーデンでは移民に対して支給される特別な社会手当も含めた統計がなされているため、単純な数字の比較はできない。 スウェーデンの生計扶助に関する先行研究と比較して、その受給要件、とりわけ能力活用として求められる活動の内容を法的観点から明らかにした点は、本研究の重要な意義の一つであると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」に記したとおり、平成24年度はわが国における政治的・社会的動向の変化を受けて、研究計画の一部を変更した。具体的には、当初の研究計画で予定していた最低保障年金の研究をいったん停止し、生計扶助の研究に重点を置くこととした。しかし、生計扶助の研究は当初予定でも全期間を通じて取り組む予定であったため、研究計画内での重点の置き方ないし順序の変更に留まる。したがって、全体としては、研究はおおむね順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究成果を踏まえて、平成25年度以降は、(1)わが国の生活保護制度とスウェーデンの生計扶助制度を、より綿密に比較検討する、(2)雇用保険給付を受給できない非正規雇用者や雇用保険給付の受給期間を満了してしまった長期失業者に対する所得保障がスウェーデンにおいてどのように構築されているかを解明する、(3)(2)の結果も踏まえ、なぜスウェーデンの生計扶助の受給率がわが国の生活保護の保護率よりも高いのかを明らかにする、といった方向で研究を進めてゆく。 また、スウェーデン・ルンド大学法学部で平成25年6月および11月に研究課題に関連する国際ワークショップが開催される。研究代表者は、両ワークショップにおいて研究成果の一部を報告する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度は、所属機関の最先端研究開発戦略的強化費補助金(頭脳循環を活性化する若手研究者海外派遣プログラム)の援助を受けたスウェーデンでの在外研究期間が長く(約150日)、当該渡航を通じて現地での資料収集やインタビュー調査が可能であったことから、本研究費を利用しての海外渡航を行わなかったため、次年度への繰越額が生じた。平成25年度は上記のとおり、研究成果発表のための海外渡航を現時点ですでに2回予定していることから、平成24年度からの繰越額をあわせて海外渡航に充てる計画である。
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