研究課題/領域番号 |
24730045
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
中野 妙子 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (50313060)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 社会保障法 / スウェーデン |
研究実績の概要 |
平成26年度に実施した研究の内容および成果は、以下のとおりである。 1 昨年度に続き、スウェーデンの生計扶助制度および失業保険制度の仕組みについての調査を行った。同国では、失業保険制度の所得比例給付部分が任意加入となっているため、失業保険加入率が低く、ひいては失業者に対する失業保険給付のカバー率が低い。職業訓練等の労働市場政策への参加を条件に支給される給付も、その支給水準・支給日数が失業保険給付と連動しており、失業保険未加入者に対する保障は限定的である。そのため、失業保険給付ないし労働市場政策給付の額が低い、またはこれら給付を受けられないために生計扶助を受給する者が、相当数存在する。とりわけ長期失業者に対する保障の手薄さが重要な問題となっている。 2 わが国の法制度については、生活保護をはじめ社会保障制度が国民に保障すべき給付水準が、憲法の条文によってどのように・どの程度規律されるのかを、憲法25条および14条に関する学説・判例を中心に調査研究した。25条に関しては、朝日訴訟以来、判例法理は立法・行政の広範な裁量を認めてきたが、老齢加算廃止訴訟の平成24年最高裁判決が判断過程統制法理を用い、一歩踏み込んだ審査を行った点が注目される。14条に関しては、下級審レベルでは制度における男女差を違憲と判断した例が増えており、上級審の判断が待たれる。 3 2014年夏より生活扶助の本体基準の引き下げが開始され、また、2015年4月から年金のマクロ経済スライドが実施された。現在、これらの制度改革の合憲性を問う訴訟が各地で提起されている。個別の判決を分析する上では2で述べた基礎的研究が、判決を受けてありうべき制度改革を考える上では1で述べた比較法的研究が、重要な知見を提供しうると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年度までの研究で、スウェーデンにおける生計扶助、失業保険および労働市場政策給付の制度構造および相互の関係についてはおおよそ明らかにされた。これは、交付申請書に記載した平成26年度までの研究実施計画をおおむね達成したものと言える。 また、国内の研究会に積極的に参加し、研究成果の一部の随時発表に努めてきた。研究会で参加者から様々な意見・指摘を受けたり、現在の日本社会における政治動向等を考慮したことで、当初の交付申請書の研究計画からは検討の視点を変えた部分などもある(研究実績の概要2で述べた憲法学的視点からの研究など)が、研究の全体像を変更するものではない。
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今後の研究の推進方策 |
スウェーデンでは、平成27年3月に疾病保険・労働災害保険・失業保険の包括的見直しに係る審議会報告書が、また同年4月に、失業中の生計扶助受給者に係る扶助受給要件の見直しを提案する審議会報告書が提出された。平成27年度はまず、これらの報告書の内容を分析し、同国における生計扶助・失業保険の制度改革の動向を調査する。 そのうえで、平成26年度までの研究成果も踏まえ、本研究課題の最終年度として研究のまとめに入る。わが国の生活保護制度・雇用保険制度とスウェーデンの生計扶助制度・失業保険制度の詳細な比較検討を行い、わが国の制度改革に対する示唆を導くことを目指す。 また、引き続き、国内外の研究会に積極的に出席し、研究成果の一部を随時発表するよう努める。
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