本年度は、契約外的規範の導入に向け、主に二つの方向から研究を進め、一部を公表した。 第一に、契約外的規範の導入に向け、そもそも何が契約内的であり、何が契約外的であると言えるのか、その基準は何が、労働法分野においては労働契約概念をどのように位置づけるべきか、といった根本的な問題について研究をした。その結果、契約の形成と内容の構成において、合意と合意外規範とが存在し、そして、その合意と合意外規範の観点から契約規範と契約外的規範の位置づけが明確にされるべきことを明らかにした(山口經濟學雑誌にて公表予定)。 第二に、契約外的規範、とりわけ、イギリス労働法におけるネクサス概念、ネットワーク概念の展開の研究を進めた。まず、契約外的規範が必要とされる歴史的、制度的、社会的背景について研究を進めた。また、契約外的規範の一類型としてのネクサス概念については、その概念提示を支える方法論、正当化根拠、非典型雇用等による就労形態に与える具体的な意義、など詳細な検討を行い、これが労働者のパーソナリティという労働法独自の法規範に依拠する、契約外的関係性に対する、労働法的アプローチと位置づけられるものとした。 他方で、契約外的規範のまた別の類型としてのネットワーク概念についても、ネクサス概念と同様の観点から考察を行ったところ、それがより純粋に契約法の展開をベースにしたものであること、したがって、労働法分野における契約外的関係性への契約法的アプローチとして位置づけられる、とした。 両方にそれぞれメリットデメリットはあるものの、目指される方向としては、両者の折衷あるいは、ネクサス概念によるアプローチであると現在のところ結論するに至った。
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