研究課題/領域番号 |
24730047
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研究機関 | 中京大学 |
研究代表者 |
柴田 洋二郎 中京大学, 法学部, 准教授 (90400473)
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キーワード | 社会保障財源の租税化 / 一般化社会拠出金(CSG) / 社会保障目的税 / 社会保険料の軽減 / 間接的な租税化 / 遡及的な租税化 |
研究概要 |
本研究は、社会保険を社会保障の中核とし、社会保険料を中心財源とする社会保障制度において、「社会保障財源としての租税」が果たす役割や意義とともに、租税法学や財政学からの分析が必要となる点を整理して検討し、我が国の議論・改革の方向性における示唆を得ることを目的とする。 2013年度も前年度に引き続きフランスを主たる研究対象とした。それにより明らかになったことを要約すれば以下のとおりである。 フランスの社会保障財源を長期的にみると、租税の割合が増加し、保険料の割合が減少している「租税化」と呼ばれる動きがみられる。そのなかで、一般化社会拠出金(CSG)という所得課税を創設し、社会保障財源に充当する目的税としたことが注目されてきた。たしかに、CSGは導入後の変遷のなかで社会保障財源に占める割合を大きくしている点で、租税化の重要な要素であることは疑いない。しかし、フランスにおける租税化の動向は単純ではない。とりわけ、1990年代後半から2000年代にかけて、3つの動きにより租税化は複雑化している。1つはCSGの細分化である。「所得類型を問わず単一かつ比例税率」を特徴として創設されたCSGは、納税義務者の所得に応じた減免税率や所得類型に応じて異なる税率が適用されるようになっている。2つめは間接的な租税化である。これは、一定の社会保障部門にCSGを充当するという直接的な税財源の導入に加えて、雇用政策の一環として使用者の負担する保険料の減免にかかるコストを国家予算に負担させるというものである。最後に遡及的な租税化である。既発の社会保障債務を事後的に税財源で補填する(後年の財政法により、充当する税財源を定めて補填する)という動きである。こうした動きは、CSG以外の税財源や所得課税に広く目配りしながら、多様な側面から社会保障財源を検討しないと租税化を見逃したり、財源の動向を見誤ったりする恐れがあることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
フランスとの比較研究を通じて、上記「研究実績の概要」に示したように社会保障財源としての租税の考察を前年度よりも一歩進めることができた。この点で、研究はおおむね順調に進展していると自己評価する。ただし、以下の2点になお課題が残されている。 1つは、フランスの社会保障制度における財源の租税化については、家族手当・年金・医療の各部門を検討の中心としてきた。しかし、近年、介護部門にも新たな税財源を充当する動きがみられた。フランスは日本と異なり介護について社会保険方式を採用していない。その意味で、介護部門の財源は従前から租税に大きく依拠していたが、充当される租税の内容が変化している。この変化の背景や議論について検討する必要がある。もう1つは、日本の法制に関する検討が不足していることである。もっとも、2012・2013年度とも日本の法制についても成果として公表することができている。ただし、いずれも断片的な成果にとどまっているため、日本の法制についてより総合的に検討したうえで、フランスの検討から得られた示唆を日本の制度のあり方に結びつけることが課題である。
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今後の研究の推進方策 |
大きく2点について、検討を進める。 1点目は、上記「現在までの達成度」に示した2つの課題に取り組むことである。具体的には、フランス社会保障法制度について個別の部門ごとの特徴を踏まえた検討を加えること、日本の法制について総合的な検討を行うことである。 2点目は、社会保障法学以外の観点からの租税の考察(租税法学、財政学からの考察)を進めることである。とりわけ、フランスでは、今なお経済学者や財政学者による社会保障財源に関する議論が活発に行われている。そこでは、社会保障財源に租税を充当する必要性を肯定したうえで、その際に選択すべき具体的な租税(特に、所得課税か消費課税かの選択)がそれぞれの学問分野の知見から議論されているようである。そこで、まずはフランスにおける議論を足がかりに、社会保障法学以外の観点からの租税の考察を行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究は、フランスとの比較研究を念頭に置いていたことから、当初より旅費に重点的に予算配分をしていた。しかし、所属研究機関のご厚意により、研究計画構想時には予期していなかったフランスでの長期在外研究者として派遣していただくことができた。それだけでなく、当初の派遣期間は1年間(2013年10月まで)だったが、さらに1年間の期間延長(2014年10月まで)を認めていただいた。そのため、海外旅費に計上していた予算を大幅に節約することができたことで、次年度使用額が生じている。 次年度も引き続きフランスとの比較研究を継続する必要があるため、海外旅費として使用する。加えて、フランスで在外研究を続けた結果、日本法(制度)の研究が若干遅れている。そのため、日本法制に関する書籍の購入、日本における有識者とのヒアリングの実施を次年度内に行うため、その際の費用として使用する。
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