本研究では、フランスを参考に、社会保障制度において租税が果たす役割を検討した。特に、「社会保障財源としての租税」だけでなく、「税制の社会保障制度に与える影響」も加味して、わが国の議論・改革の方向性への示唆を得ようと試みた。 2015年度は「社会保障財源としての租税」についての研究を進めた。フランスの社会保障財源を長期的にみると、租税の割合が増加し、保険料の割合が減少している租税化の動きがみられる。これは一般化社会拠出金(CSG)と呼ばれる所得にかかる社会保障目的税による。CSGは比例税率で課されるが、現在、2つの形で応益負担的な要素を加えようとする改革案がみられている。 1つは、低賃金労働者にかかるCSGの率や額を減額することである。もっとも、その根拠となる財政法上の規定は、野党議員により憲法院(法律の合憲性審査機関)に提訴された。憲法院は、低所得層に的を絞った負担軽減策の可能性を認めながら、当該規定が稼働所得以外の所得、納税者以外の家族構成員の所得、家族構成をいずれも考慮しておらず、納税者の担税力を全体として考慮していないため租税平等原則に違反するとした(2000年)。直近でも、当該規定が被用者および公務員のみを対象とし、非被用者は対象となっていないことを指摘し、法の下の平等に反するとした(2015年)。 もう1つは、税制の累進性と再分配性を高めるため、CSGと所得税を統合した累進税率の所得課税を新設することである。現在の社会党政権は、この新税の創設と、その税収の一部は社会保障財源に充当することを提案した。もっとも、詳細が明らかでないため、社会保障財政の不安定化―ひいては、社会保障制度自体の不安定化―を招くとして労働組合からの反対を招き、改革が停滞している。 このように、上記2つの新しい方向性は、いずれも実現には至っていないが、その帰趨が注目されている。
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