研究課題/領域番号 |
24730048
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
今川 奈緒 佛教大学, 社会福祉学部, 講師 (60509785)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 障害児教育法 / 特別支援教育 / インクルーシブ教育 / 特別支援学校 / アメリカ合衆国障害者教育法(IDEA) / LRE(より制限のない環境)の原則 / 無償かつ適切な公教育(FAPE) |
研究概要 |
本研究の目的は、アメリカ法との比較研究により、日本の障害児教育法制度の中に「インクルージョン」、「適切性」、「合理的配慮」の理念を導入するための示唆を得ることである。現在米国において、障害児の約50%が通常学級に在籍しているが、米国の障害者教育法(IDEA) においては、インクルージョン等の文言は明記されていない。IDEAはインクルージョンを明記するのではなく「より制限のない環境(LRE) の原則」を用いることによって、インクルーシブ教育を進めてきた。平成24年度の研究目的は、IDEAにおいてLREの原則が用いられた理由を明らかにすることであった。 平成24年度の研究実施計画は、①IDEAの立法制定過程、および②1990~2012年の関連裁判例について調査・検討を行うことであった。したがって、拙稿「インクルージョンと分離を巡る一考察―障害者教育法におけるLREの原則について」大原社会問題研究所雑誌640号(2012年)における研究成果を基に、上記2点の検討を進めた。その結果、アメリカの障害者教育法(IDEA)においてインクルージョン等の包摂を示す文言ではなく、より制限のない環境(LRE)の原則が用いられてきたのは、インクルージョンか分離かという環境を選択する前提として、障害児のニーズに応じた適切な教育を保障することが重視されてきたからであるということが明らかになった。日本の障害児教育においては原則分離の仕組みがとられており、これを原則インクルージョンに改めようとする動きがみられるが、アメリカの障害者教育法(IDEA)のように、「適切な公教育」の保障を前提にインクルージョンを明記することなくこれを推進することは、教育の多義性、差異性に対応する有効な手段の一つであると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究目的は、IDEAにおいてLREの原則が用いられた理由を明らかにすることであった。具体的な研究実施計画は①IDEAの立法制定過程、および②1990~2012年の関連裁判例について調査・検討を行うことであり、これらについては、拙稿「インクルージョンと分離を巡る一考察―障害者教育法におけるLREの原則について」大原社会問題研究所雑誌640号(2012年)に一定の研究成果がまとめられている。 本研究の最終的な目的は、アメリカ法との比較研究から、日本の障害児教育法制度の中に「インクルージョン」、「適切性」、「合理的配慮」の理念を導入するための示唆を得ることであるので、アメリカ法の研究と並行して日本の障害児教育法の現状、問題点を明らかにする必要がある。日本におけるインクルージョンと「適切性」の問題について研究を行うことは次年度の研究計画であったが、より効果的に日米法の比較検討を行うために、予定を早めて日本法の検討も進めることにした。研究成果としては、2012年10月8日の『公開シンポジウム「教育と障害差別禁止法」』 における報告「 障害児への適切な教育の保障について」、および、荒牧重人・小川正人・窪田眞二・西原博史編『基本法コンメンタール教育関係法(別冊法学セミナー)』日本評論社(78~82条担当)があげられる。
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今後の研究の推進方策 |
IDEAにおいて「インクルージョン」等の包摂を示す文言が規定されることはなく、「より制限のない環境(LRE)」において「無償かつ適切な公教育」を保障するという法の趣旨が貫かれてきた。これは、障害者教育法(IDEA)が教育の「適切性」を特に重視したからであると考えられ、ここからは障害児への適切な教育の保障が前提となり、その上でインクルージョンが行われるべきという思想が見てとれる。障害児の障害の性質の多様性及びそれに基づく多様なニーズを考慮すれば、障害児教育において「適切性」の保障が重視されることは当然のことと考えられる。 これに対し、日本の法制度において障害児への適切な教育の保障という理念は十分に検討されておらず、インクルージョンか分離(特別支援学校)かという形式的な側面から障害児の教育を受ける権利を考える傾向にあった。「適切性」の概念を考慮することなくインクルージョンを推し進めていくことは、障害児の実質的な教育を受ける権利を侵害する可能性がある。平成25年度も引き続き、日本におけるインクルージョンと「適切性」の問題について研究を進める予定である。研究の推進方策としては、①日本の障害児教育法制の改革案の検討(内閣府と文部科学省の各委員会の提案等)、②日本の障害児教育をめぐる裁判例および法制度の検討、を行う予定である。また、日本法の検討と並行して、米国の障害者教育法の検討も進める予定である。具体的には、③IDEAの検討に加え、教育における合理的配慮について規定しているリハビリテーション法504条についても検討を進めたい。平成25年度は上記3点を軸として研究を行う予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
①次年度に使用予定の研究費が生じた理由は、平成24年度に参加予定であった障害者教育法のシンポジウムへの参加を校務の関係で見送ったからである。次年度はELA(Education Law Association)への参加を予定しており、そのための渡航費および滞在費に充てる予定である。 ②アメリカの障害児教育法関連の文献を入手するために、データベース(lexis.com)の年間利用契約をする。本データベースを利用することにより、米国の裁判例、ローレビューをもれなく入手することができる。 ③国内の研究会参加のための交通費とて使用する。 ④国内外の文献購入費用、資料のコピー費として使用する。
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