本研究は、罪刑法定主義とその趣旨の適用領域を確定し、刑罰法規とその解釈の明確性に関する基準を呈示することによって、特別刑法によって処罰される領域を明確にすることを目的とする。最終の研究年度にあたる本年度においては、昨年度の途中からドイツにおいて長期在外研究の機会を得られたため、ドイツ法にやや比重を置いた研究活動となっている。主として、ドイツにおける罪刑法定主義、とりわけ解釈の明確性について研究すると共に、日本法との比較のために、ドイツの金融商品取引法について研究を行った。 1.近年、連法憲法裁判所は、刑罰法規解釈の明確性に関して、重要な決定を下した。法文言のある程度の柔軟性はとりわけ経済刑法においては避けられず、他方、法解釈の余地は拡がる。それに対して明確性の観点から統制を行うという連邦憲法裁判所の姿勢は、基本的には歓迎されるべきものと思われるが、その実務への影響などに鑑みれば更なる検討が必要であると思われる。さらに、我が国への導入を考える場合、解釈の明確性が憲法的要請に基づくと理解されている点や刑事司法制度の違いが問題となる。 2.ドイツの市場操縦規制は、比較的抽象的な文言で立法され、規則制定権限を行政に委ねるという形が採用されている。しかしながら、その反面として、明確性原則との関係で様々な異議が唱えられてきた。さらに、EU法とのハーモナイゼーションの関係で、処罰の拡張が予定されている。以上のような証券取引規制をドイツ刑法学がどのように取り扱うのかは、今後の我が国の市場操縦規制を考える上でも多くの示唆を与えるものである。 3.研究成果として、昨年度の研究に基づく会社法についての研究成果が2015年度に出版されるほか、上記2点について成果公表のために研究をまとめている。また、研究成果の副産物として、日本とドイツの比較についてドイツにおいて成果を公表することが決まっている。
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