最終年度となった平成27年度は、平成26年度に計画していた第4期研究(日本法との比較・検討)、及び第5期研究(研究総括と論文執筆)を継続するとともに、イギリス(ロンドン及びオックスフォード)で短期間の海外調査・研究を行った。 平成24年度計画の第1期研究では、マネー・ロンダリング規制の基本法である2002年犯罪収益法327条(隠匿等罪)、328条(参画罪)、329条(所持等罪)の解釈(前提犯罪の証明程度、犯罪収益性の概念、認識又は疑念の要件、情報開示による抗弁、法律専門家の刑事責任の有無、盗品関与など他罪との関係、訴追上の指針など)につき、判例の動向と理論の状況を整理・分析した。 平成25年度計画の第2期研究では、2002年法6条以下の刑事的没収制度、及び同法341条以下の民事的回復制度の概要について、調査を行った。民事の証明基準で足り、後者は有罪判決さえ前提としないなど、柔軟な手続が定められる反面、欧州人権条約6条をはじめ、人権保障の面で慎重な検討及び運用が要請されていることなどが確認された。 平成26年度計画の第3期研究では、リスク・ベースト・アプローチを採用するイギリスの法執行機関の取り組みと法執行の状況について、調査を行った。犯罪収益対策の諸任務が当初の資産回復庁(ARA)から重大犯罪局(SOCA)を経て国家犯罪局(NCA)に移管されたこと、資産サービス庁(FSA)が資産活動庁(FCA)に変わったこと、これらの機関が2007年マネー・ロンダリング規則に基づき、疑わしい活動の報告(SARs)を中心とした取り組みを行っていること、このSARs件数が年々大きく増加していること(2015年は前年比7.8%増)などの現状が確認された。 本研究により、FATFによる諸勧告が向けられた日本法の今後の解釈及び立法の方向性を慎重に検討するための視座、知見及び示唆が得られた。
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