研究課題/領域番号 |
24730063
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研究機関 | 海上保安大学校(国際海洋政策研究センター) |
研究代表者 |
新谷 一朗 海上保安大学校(国際海洋政策研究センター), その他部局等, 講師 (40532677)
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キーワード | 刑法 |
研究概要 |
2年目にあたる平成25年度は,初年度に抽出した論点を深化させることを目標としていた。すなわち,初年度においては,終末期医療における意思決定をめぐる現在のアメリカの議論を検討し,その中で,日本における刑法上の議論としても示唆的な点として,「事前の書面による意思表示を現在の意思表示と同視することができるのか」という根本的な問題点が抽出された。 そこで,新谷一朗「終末期医療における自己決定と事前指示について-アメリカ合衆国の議論を素材として-」高橋則夫他編『曽根威彦先生・田口守一先生古稀祝賀論文集』(成文堂,2014年)327-345頁では,延命拒否においては本人の自己決定が重要であるとされつつも,実際には本人に意識がないという矛盾した状況が現出している,という日本の刑法学における指摘をふまえて,意思決定能力を失った場合に備えて延命治療を拒否する意思を事前に示しておく文書(いわゆるリヴィング・ウィル)の有効性について,この種の立法が可決されてきた中でのアメリカにおける議論を分析し,現在のアメリカの潮流を指摘したうえで,検討を加えた。 ここでは,自律を根拠とした形式的な議論としては,その文書の有効性を肯定しうるものの,この有効性を実質的に担保する,インフォームド・コンセントの要請を充足しうる文書が存在するのか,という問題が浮き彫りとなった。そして,文書による事前の意思表示の際に,これを患者が独自に作成するのではなく,医師がこれに助言を与えるかたちで作成する文書(いわゆるPOLST)が現在アメリカで普及していることを指摘し,まさにこれが実質的な事前の意思決定に資するものである,と結論づけた。 この研究と,これまでの代行判断に関する研究をあわせて,「終末期医療における意思表示-アメリカの議論を手がかりとして-」という論題で,2013年11月24日の第43回日本医事法学会で,個別報告を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず,新谷一朗「終末期医療における自己決定と事前指示について-アメリカ合衆国の議論を素材として-」高橋則夫他編『曽根威彦先生・田口守一先生古稀祝賀論文集』(成文堂,2014年)327-345頁において,初年度に抽出された問題点のうち「そもそも,事前の書面による意思表示によって,意思決定能力喪失後の医療行為を指示しうるのか」という論点については検討し,一定の結論を導くことができた。 さらに,そこで意思表示の充実化に資する文書として紹介した,現在アメリカで普及しつつある「POLST」と呼ばれる文書の具体的な運用状況について検討する必要性を明確化することができた。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の研究において,日本の議論にも示唆的な,アメリカにおける尊厳死に関わる論点として挙げたもののうち,「代行判断においても自己決定を尊重するためには,明白かつ説得力ある証拠という基準を用いることが望ましいが,この具体的な判例の運用はどのように行われているか」という部分については,2年目の研究で扱うことができなかった。これについては,すでに多数の判例が蓄積されているため,どのような証拠が提出された場合に,この証拠基準が充たされている,あるいは充たされていないと判断されたのかを分析することとする。 また,2年目の研究において,終末期において実施される医療行為を指示するための事前の意思表示を,インフォームド・コンセントの要求を充たすかたちで行いうる文書として,現在アメリカで普及しつつある「POLST」と呼ばれる文書を紹介した。この具体的な運用状況について検討することとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入を予定していた図書が予想より廉価であったため,5000円程度の差分が生じた。 本年度の研究においても,必要な文献の購入のため30万円程度を図書の購入に宛て,刑法学会と医事法学会などへの参加のための旅費として10万円程度を旅費に充てる。
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