研究課題/領域番号 |
24730065
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
山本 周平 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (10520306)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 不法行為法 / ヨーロッパ不法行為法 / DCFR / オーストリア損害賠償法 |
研究概要 |
1 平成24年度においては,まず,オーストリア損害賠償法(不法行為法)の改正をめぐる議論の検討に着手した。具体的には,オーストリア司法省によって組織された研究グループの起草した改正草案(討議草案)とその注釈書を検討の出発点とし,それに反対する別の研究グループの論稿も含めて検討を行った。 しかしながら,オーストリア損害賠償法改正の動向については,目下,事態を正確に把握しづらい状況にある。Martin Schauer教授(ウィーン大学)から入手した情報(平成24年5月時点)によれば,上記の討議草案については,2007年の一部修正の後,さらに改訂版が作成されているが,まだ正式には公表されていないとのことであり,実際に未入手である。他方で,ごく最近では,文献の数がやや少なく,議論が比較的低調であるように見受けられる。このような事情から,少し様子を見ながら,適切な段階で現地に赴いて調査することが必要であると考え,この点の検討はさしあたり後回しにした。 2 そこで,平成24年度は,共通参照枠草案(DCFR)第VI編(契約外責任)についての検討を主軸に据えることになった。その検討においては,DCFR第VI編の規律内容を理解するとともに,主に立法論を念頭に置き,不法行為に関する立法の方法としての一般条項と個別ルールの役割分担に着目した検討を行った。そこでは,DCFR第VI編が個別的なルールを重視した体系になっていることや,それにもかかわらず,不明確な部分が少ならずあり,不法行為法の体系の理想像を提示しているとはいいがたいことなどが明らかになった。 DCFR第VI編の研究成果については,北海道大学および京都大学において研究報告を行い,そこでの議論を通じて,さらに検討すべき点を認識することができた。それを踏まえた加筆・修正のうえ,近いうちに論文として公表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
オーストリア損害賠償法の改正をめぐる議論については,検討を一時中断しているものの,基礎的な調査はある程度終えている。また,DCFR第VI編については,すでに研究報告として取りまとめているため,それに加筆・修正のうえ,平成25年度初頭には論文を完成させることができると思われる。 以上の理由により,研究目的の達成度は「おおむね順調に進展している」ものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は,まず,DCFR第VI編に関する論文を早急に取りまとめ,勤務校の紀要(北大法学論集)に掲載する予定である。 その後,オーストリア損害賠償法の研究を再開する。その動向にやや流動的な面があることから,具体的な進め方は状況次第で変わる可能性があるが,基本的にはまず,最新の資料・文献があればそれを収集し,今までに調査したものと併せて,議論状況の整理を行う。その際には,DCFR第VI編の検討を通じて得た知見との関連性を考慮して,不法行為法の体系形成の中で,一般条項と個別ルールの役割分担がどうあるべきかという視点を基礎に置く。 以上の作業とともに,なるべく平成25年度の前半のうちに,オーストリアに赴き,資料収集および意見交換を行う予定である。また,国内における不法行為法関連の研究会にも積極的に参加し,意見交換を通じて研究を促進するための知見を広めたい。 その後,平成25年度の後半から,オーストリア損害賠償法に関する論文の取りまとめに着手する。ここでは,ドイツ不法行為法も視野に入れつつ,国内外における情報収集・意見交換の成果を踏まえて,多角的な視点から分析を行いたい。この論文は,平成25年度中に完成させ,公表する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度の調査の過程で,オーストリア損害賠償法の動向について,事態を正確に把握することが難しく,研究を進めにくい状態になった。そのような状況を打開するためには,現地に赴き,資料収集やインタビューなどの調査をする必要があるが,その前提として,文献を今一度精査するとともに,現地でどのような資料を収集し,誰にインタビューを試みるかといった点について,今しばらく時間をかけて慎重に決定するのが適切であると思われる。そのため,平成24年度予算の一部を翌年度に使用することになった。この分は,オーストリア損害賠償法に関する文献の補充的な調達費用と,インタビュー対象者への謝金として使用する予定である。
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