研究課題/領域番号 |
24730068
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
白井 正和 東北大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (10582471)
|
キーワード | 企業買収 / 敵対的買収 / 友好的買収 / 組織再編 / 支配権移転 |
研究概要 |
本研究は、企業買収の場面において生じる問題に対する解決策として考えられる法制度に関して、主として理論的な観点に基づき、分析・検討を行うことを目的とする。具体的には、敵対的買収・友好的買収を問わず、広く会社の支配権が移転する場面を対象に、こうした企業買収の場面で生じうる問題を解決するために諸外国で採用されている法制度の具体的な内容のみならず、かかる法制度が有効に機能するための前提となる条件の内容を分析し、このような条件がわが国でも観察可能かどうかという観点から、わが国の企業買収の場面におけるあるべき法制度の内容について提言を行うことを目的とする。 本年度は、わが国の企業買収の場面における問題(特に構造的または潜在的な利益相反問題)に対処するという観点から、利益相反を回避・軽減するための措置として、欧米を中心とした諸外国で近年広く利用され、わが国でも最近では利用される事例が大幅に増えつつある第三者委員会(特別委員会)の有効性の評価基準に関する比較法的研究を行った。この問題に関しては、とりわけ米国における判例法理が参考になると考えて、その内容を最新のものまで含めて精査するとともに、わが国の企業実務に関する実情等に照らし、わが国で実現可能な望ましい第三者委員会のあり方について分析・検討し、論文を執筆した(学術雑誌に平成26年度の前半に掲載予定)。また、とりわけ本年度の後半には、企業買収の場面における対象会社役員の損害賠償責任のあり方や、公開買付制度に関する比較法的研究を進めた。特に対象会社役員の損害賠償責任のあり方に関する問題については、比較法的観点からの研究に加えて、2013年4月に東京高裁からこの問題に関する理論的にも実務的にもきわめて重要な判決が示されたことから、本研究で培った理論的な視点に基づきながら同判決の分析・検討を行い、論文を執筆した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度に行った基礎的な研究を踏まえ、かかる基礎的な研究を進展させることに加えて、単に理論的な観点からありうる議論のメニューを提示するだけでなく、わが国の企業買収に関する実際的な問題につき、わが国の企業買収の実情等を踏まえた上で、わが国において実現可能な望ましい解決策のあり方について分析・検討を行った。すなわち本年度には、本研究が単なる比較法的・理論的な分析にとどまらず、わが国の企業買収の場面における実践的な課題に対して分析・検討、そして提言を行う段階に進み始めたということができる。 特に、企業買収の場面における第三者委員会(特別委員会)が有する機能やその有効性、(有効に機能した場合に)あるべき法的な効果に関しては、これまでわが国では、この問題を扱った詳細な論文はほとんど公表されていなかったところ、本研究を通じて、同委員会に関する比較法的・理論的な観点から、わが国の企業買収の場面における実情等(諸外国との前提条件等の違い)も踏まえつつ、同委員会に関する実務上の課題に応えうる研究を遂行することができたのではないかと考える。また、企業買収の場面における対象会社役員の損害賠償責任のあり方や、公開買付制度に関する比較法的研究も順調に進んでおり、前者の問題(企業買収の場面ににおける対象会社役員の損害賠償責任のあり方)に関しては、本年度の後半に本研究の問題意識を明らかにする内容の論文を公表している。 以上の本研究の作業状況を踏まえて、現在までの達成度としては、おおむね順調に進展しているものと評価する。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度前半には、わが国の企業買収に関して、平成25年度に実施した文献を中心とした調査をより一層進展させるとともに、かかる調査では不足する部分について、実際に取引に携わっている当事者たちへのインタビュー等を通じた定性的なフィールドワーク調査等に着手する予定である。以上の作業を通じて、わが国の企業買収取引の実態に関する詳細な理解が可能になることが期待できる。この点に関しては、専門家としてわが国の企業買収の場面に深く関与する弁護士との間で企業買収法制に関する共同研究の話も進んでおり(平成26年度前半に実施予定)、実務上の問題関心に対する理解を十分に深めながら、研究者として理論的観点からわが国の企業買収法制のあり方について検討を進めていく所存である。 平成26年度における検討の具体的なテーマとしては、諸外国で採用されている企業買収に関する法制度が機能するための具体的な条件について、それらをわが国でも観察することが可能か、それともわが国ではそのような条件は成り立たないのか、仮に成り立たない場合には、諸外国で採用されている法制度の内容をどのように変容すれば、わが国でも有効に機能すると評価できるのかといった点について、具体的に考察を深めていくことを予定している。検討に当たっては、抽象的な議論に終始しないよう、実務上の問題意識や具体的な法制度を前提に分析を進めることとする。 以上の成果を踏まえて、平成26年度の後半には、これまでの作業を統括し、研究成果を公表する予定である。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額は、今年度の研究を効率的に推進したことに伴い発生した未使用額である。 未使用額は44,502円と比較的少額であり、平成26年度請求額とあわせ、平成26年度の研究遂行に使用する予定である。
|