最終年度にあたる本年度は、企業買収法制に関する理論研究として大きく次の4点に焦点をあてて研究を進め、それぞれ研究の成果を論文として対外的に公表した。第1に、対象会社の取締役の義務に関して、米国の企業買収の場面で採用されているレブロン義務の発動要件および同義務の内容を紹介するとともに、同義務の背後にある考え方(同義務の正当化根拠)を模索し、同義務とレックスホールディングス損害賠償請求事件の東京高裁判決で言及された価格最大化義務との関係について分析・検討した。第2に、平成25年度の研究に引き続き、友好的な企業買収の場面における第三者委員会(特別委員会)の有効性に関して、比較法的観点からの示唆を得るとともに、実際の日本における企業買収の事例(MBO)を題材に、日本における第三者委員会の有効性に関する望ましい評価基準のあり方について検討した。第3に、敵対的買収の場面に関して、強力な買収防衛策の採用が対象会社における株主利益の観点から正当化できるかという問題意識に基づき、米国の法学者・経済学者から指摘されている強力な買収防衛策の正当化根拠(強圧性・交渉力仮説等)とその議論の限界について検討し、日本の敵対的な企業買収の場面においてそれらの議論からどのような示唆を得ることができるかについて分析・検討した。第4に、近年では日本でも、対象会社における株主の判断機会を設けることで、企業買収の場面における株主と取締役との間の構造的または潜在的な利益相反問題に対処するという考え方が広まりつつあるが、株主の議決権行使行動の合理性に関する限界として古くから指摘されている集合行為問題に加え、近年ではエンプティ・ボーティングに起因する問題も指摘され始めており、こうした問題について理論的観点から掘り下げて分析するとともに、日本においてこうした問題にどのように対処したらよいかについて検討した。
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