研究課題/領域番号 |
24730070
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
垣内 秀介 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (10282534)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 裁判外紛争処理 / ADR法 / フランス法 / 民間型ADR |
研究概要 |
2012年度においては、研究計画に従い、基礎となる日本法及び各国法の資料収集を進めつつ、日本法に関しては、ADR法施行後5年を経た現在の状況を確認するための調査・検討を行い、また、比較法研究に関しては、とりわけヨーロッパの状況に重点を置いた調査・分析を開始した。また、2012年9月には、Gennロンドン大学教授、Steffekマックスプランク外国私法・国際私法研究所研究員らを中心として企画された国際シンポジウムに日本のナショナル・レポート執筆者として参加し、有益な示唆を得ることができた。これらの結果として得られた知見の概要は、以下の通りである。 第一に、日本法に関しては、ADR法の施行にもかかわらず、一部の機関を除いて、同法の目的である民間型ADRの利用の活性化は、なお達成されたとは言い難い状況にある。そうした中、ADRに対する財政的支援の可否およびあり方という観点からは、ADR法の見直しの一環として、ADRを裁判手続と「並ぶ」選択肢として法律上も位置づけることが考えられるが、そうした位置づけを理論上正当化するためには、実体法の宣言・適用という狭義における「司法」という視点では不十分であり、紛争解決手段の選択に関する当事者自治を理論上正面から位置づけることが要求される。 第二に、比較法については、主としてフランス法について調査を行い、フランスにおいては、2003年に家事調停人国家資格が創設され、国が法令に基づいて研修時間数やその内容を詳細に定めているが、そうした国による介入については批判もあること、EU指令の国内法化に関するここ数年の法改正においては、裁判所との連携確保や、ADR和解に対する執行力付与といった形でADRの利用促進が積極的に図られている反面、裁判へのアクセスを重視する観点から、ADRの利用の強制に対しては、慎重な立場がとられていることなどを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、(ア)裁判外紛争解決手続(ADR)に対する国家法の関与のあり方について、EU諸国及びアメリカを対象とした比較法的研究、及び、司法権、民事訴訟制度の目的、私的自治の原則など、関連する伝統的諸概念の再検討を通じて、基礎的な理論枠組を構築するとともに、(イ)国による民間型ADRの促進・規制のあり方について、上記基礎理論を踏まえた具体的提言を行い、わが国における今後の民間型ADRに関する施策のための指針を提供することを目的とするものである。 研究実績の概要に示した通り、2012年度においては、日本法及びEU諸国、とりわけフランスに関する調査・検討を通じて、上記(ア)で述べた理論枠組構築のための基礎的な知見を得ることができたことから、次年度以降の研究の継続により、概ね研究計画に示した通りの研究の進展を期待することができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、日本法に関して、ADRをめぐる従来の議論のほか、司法権及び裁判を受ける権利をめぐる憲法学上の議論、民事訴訟制度の目的に関する民事訴訟法学上の議論について引き続き検討を深めるとともに、差し当たりは、これらについて日本法と相当程度理論的前提を共有しているドイツ法についての研究を進めることにより、日本法における理論状況のより客観的な把握に努めることとしたい。この目的のため、2013年度においては、一定期間ドイツに滞在しての調査・研究を予定している。具体的には、紛争処理に関する国際的研究プロジェクトを擁しているフランクフルト大学に滞在し、同大学及び同地のマックス・プランク法制史研究所の研究者との情報交換・意見交換を通じて、この作業の進展に努めることとしたい。 また、日本のADR法に関する実践的な提言としては、2012年に、研究代表者が中心となってとりまとめた立法提言があり、これをも踏まえた議論状況の進展を見守りながら、あり得べき提言のさらなる具体化や、その基礎をなす理論的枠組の真価に努めたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
2012年度における研究費の使用はほぼ想定にしたがったものであり、次年度使用額とされている19,594円は、書籍購入等の際の端数によるものである。 次年度においては、引き続き日本法及び各国法の資料収集のために研究費を使用するほか、ヨーロッパ、とりわけドイツにおける調査のため、旅費を支出する予定である。また、外国における調査に際して使用するノートパソコンなど、若干の研究用機器を購入する予定である。 以上の支出により、次年度も、概ね研究計画に従った研究費の使用を予定している。
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