研究課題/領域番号 |
24730070
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
垣内 秀介 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 教授 (10282534)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 裁判外紛争解決手続 / 裁判外紛争処理 / ADR / ADR法 / ADR促進 |
研究実績の概要 |
2014年度における主な研究実績は、下記の通りである。 第一に、日本における民間型ADR促進策の現状について、主としてドイツにおける状況との比較から、その課題を分析した。そこでは、訴訟手続の利用件数に格段の差があることなど、両国における状況の違いから、両国における国によるADRの促進のもつ意味合いに大きな違いがあることを確認した。具体的には、当事者の自己決定に対して訴訟選択への強いバイアスが働いていることが疑われるドイツと、むしろ逆に紛争回避の方向への強いバイアスが推測される日本との対比が明らかとなった。 第二に、本研究における分析の支柱となるADRの概念に関して、これまでの検討結果を踏まえて整理を試み、一定の見通しを得ることができた。具体的には、紛争の概念、その解決ないし処理の概念設定のあり方、また、そうした概念設定が有する含意について、分析を一歩進めるとともに、それを踏まえた日本の現状分析を試みた。 第三に、国によるADR促進の目的と民事訴訟制度の目的との関係についての分析を進め、両者を一段階高次の視点から包摂するための理論的視座の提示を試みた。具体的には、民事訴訟制度及びADRの双方を、ともに当事者の自己決定のための条件ないしその豊穣化の手段として位置づけるものである。これにより、各種の紛争解決制度を視野に入れた法理論的枠組みの構築を、一歩進めることができた。 第四に、国による施策の具体的な局面の1つとして、ADRにおいて当事者等が得た情報の取扱いについて検討を行い、立法提案を試みた。具体的には、関係者間の証拠制限契約を理論的裏付けとするデフォルト・ルールの条文化及び手続実施者に対する法定の守秘義務を内容とするものである。また、その内容については、仲裁ADR法学会におけるシンポジウムにおいても報告し、意見交換をすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、(ア)裁判外紛争解決手続(ADR)に対する国家法の関与のあり方について、EU諸国及びアメリカを対象とした比較法的研究、及び、司法権、民事訴訟制度の目的、私的自治の原則など、関連する伝統的諸概念の再検討を通じて、基礎的な理論枠組を構築するとともに、(イ)国による民間型ADRの促進・規制のあり方について、上記基礎理論を踏まえた具体的提言を行い、わが国における今後の民間型ADRに関する施策のための指針を提供することを目的とするものである。 研究実績の概要に示した通り、2014年度においては、日本法及びEU諸国、とりわけドイツに関する状況との対比や、民事訴訟制度の目的との関係についての検討などを通じて、上記(ア)で述べた理論枠組構築を格段に進めることができたこと、当事者の自己決定を基礎とした紛争解決手続全般の規律枠組みについての考察を進めることができたこと、各論的な考察の1つとして、秘密の取扱いに関する立法論的な検討の結果を公表することができたことから、次年度における研究の継続により、概ね研究計画に示した通りの研究成果の達成を期待することができると考えられる。 以上の理由から、本研究の現在までの達成度は、概ね順調なものと評価される。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究においては、2014年度までの研究成果を踏まえつつ、ADRの法制度上の位置づけに関する理論的検討をさらに深めるほか、各種の具体的なADR促進施策に伴う利害得失等について、いっそう詳細に分析を行うこととしたい。その際、日本法におけるADRをめぐる従来の議論を引き続き検討の素材とすることは当然であるが、それに加えて、司法権及び裁判を受ける権利をめぐる憲法学上の議論、民事訴訟制度の目的に関する民事訴訟法学上の議論についても、引き続き検討を深めるとともに、これらについて日本法と相当程度理論的前提を共有しているドイツ法についての研究を一層進めることとしたい。 また、現在、本研究とは別に実施中であるADRの利用者調査から得られつつある経験的知見も、こうした検討にあたって有益な示唆を提供することが期待される。 さらに、日本のADR法との関係では、2013年3月に公表されたADR法に関する検討会の報告書を踏まえた各種施策の実施状況を注視しつつ、今後の立法および解釈に関するさらに実践的な提言の可能性を検討することとしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2014年度における研究費の使用は、ほぼ想定にしたがったものであったが、主として洋書の納入価格に関する為替の変動により、若干の残額が発生したものである。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度においては、引き続き日本法及び各国法の資料収集のために研究費を使用するほか、日程上可能であれば、外国調査のために旅費を支出する予定である。また、調査・研究に要する若干の機器を購入することを予定している。 以上の支出により、次年度も、概ね研究計画に従った研究費の使用を予定している。
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