研究課題/領域番号 |
24730073
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
大澤 慎太郎 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 講師 (90515248)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 保証 / 担保 / 民法 / フランス法 / 金融機関 / 融資者責任 / 貸手責任 / 警告義務 |
研究概要 |
初年度においてまず達成すべきことは従前の研究内容の検証であった。係る点について、大きな貢献をしたのが、「日仏民法セミナー」(フランス)において行った、「貸手責任」と題するテーマでの研究報告である。当該テーマは本研究計画に直接に接合する問題であるところ、報告においては、保証人に対する貸手(金融機関)の融資取引に係る責任という問題に主眼をおきつつ、従前の研究を総括し、その疑問点等をフランス側の報告者に投げかけ回答を得るということに注力した。結果として、当日の議論のみならず、その準備のために重ねて行ったフランス側の研究者と間の議論を通じて、または、同じく報告を行う日本側の研究者との研究会を通じて、貴重な成果を得ることができた。具体的には次の通りである。 フランス法においては、借主や保証人らの経済的破綻を防ぐために金融機関が負う義務は多岐に渡るところ、近時はこれらが整理され、金融機関の義務を軽減するような方向にあるのではないかということが、従前の研究から導きだされる1つの仮説であった。これは、各当事者の自由な経済活動とその保護の調和点を模索する動きとも評価しうるところ、この認識については概ね妥当であるとの確認が得られた。わが国では従来、借主や保証人の保護が手厚いフランス法の側面のみが強調されてきた感があり、係る点の確認は本研究計画実施に当たっての基盤となるべき重要な成果である。 併せて、従前の研究の延長線上に位置づけることができるフランスにおける立法動向の調査においても、上記の点を確認できるほか、特に賃料保証においては、保証人を精神的圧力の手段として用いるという批判の多い古典的な手法を、ある種、肯定的に捉えるような動きがあることを確認できたことの意義も少なくない。 以上のように、研究は順調な進展を見せており、成果の詳細もその一部を既に公表するに至っている(後掲)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度において予定されていた計画は、1「従前の研究の整理と補正」、2「フランスにおける法人保証の研究」、および、3「立法動向の調査」の3点である。 このうち1については、本研究計画のまさに1階部分ともいうべき基盤的研究であるところ、研究実績の概要において示した通り、主として「日仏セミナー」での報告を通じて、従前の研究内容の確実性、および、そのプロセスの適正性の確認、さらには、仮説の証明等の成果を得ている。具体的にこの成果とは、近時のフランス法における、金融機関の義務の軽減を通じた自由な経済活動と借主や保証人の保護との調和を目指す動きの確認という点に集約される。また、3の活動においても、とりわけ、2009年の賃料保証に関する立法、および、2010年の情報提供義務に関する立法の調査からは、上記の成果をさらに補強する結論を得られている。これらは、予想を超えると言ってよいほどの成果であり、全体として、研究の方向性が正しいものであることが裏付けられている。 一方、2の活動については、未だ、保証人となることができる法人を分類する程度の成果に留まっており、当初の予定からすれば、その機能の分析という視点において、遅れが生じていることは否めない。しかし、法人保証の機能の分析は、結局のところ、「社会・経済構造に力点を置いた金融機関の融資行動の把握」という平成26年度計画の実施と表裏一体の関係にあると言ってよく、継続的な研究のもと、最終年度までに結果を示すことができれば、全体目的の達成という観点からは十分であると考える。 以上から、2の計画部分において実施上の遅延が生じてはいるものの、1および3の活動からはその遅延を補って余あるほどの成果を得られており、全体目標の達成に向けて研究活動は概ね順調に進んでいるものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究計画が概ね順調に進展したことから、全体的な方針としては余り修正すること無く、ほぼ当初の予定通りに進めていく予定である。具体的には以下の通りである。 1「フランスにおける法人保証の研究」:当初の計画では本年度において研究を終える予定であった「法人保証」関して、いかなる場面で法人保証が機能するのか、あるいは、保証制度における法人保証の役割、位置付けはどのようなものであるのかという視点から、保証人保護制度の全体構造を把握するために、引き続き検討を行う。 2「フランスにおける倒産処理手続きに係る保証人の処遇に関する分析」:保証人保護の全体構造を把握するためには、保証契約の締結という、いわば保証の入口部分での保護から、倒産状態に陥ってしまった場合という、いわば保証の出口部分での救済についてまで、包括的に検討しておくことが必須となるところ、後者の視点は研究実施者の従前の研究からは欠落している部分である。次年度における研究の中心的な課題はこことなる予定である。 3「社会・経済構造に力点を置いた金融機関の融資行動の把握」:保証は主に金融機関等の融資の際に付されるところ、フランスにおける保証人保護制度の全体像を把握するに当たり、そもそも、フランスでは、融資の主体としてどのような金融機関が存在しているのか、および、その各金融機関はどのような融資行動をとるのかという点についても、検討を行うことが必須となる。本課題は最終年度である平成26年度の中心的課題となるところ、その内容は上記の1の課題とも密接に関連するものであり、また、その対象の広範さ、および、複雑さも考慮して、次年度から本格的に調査・分析に入る。 4「立法の動向の調査」:フランスにおけるここ数年の法改正はめまぐるしい。上記の各課題を達成するための基礎となる研究活動であり、本年度に引き続き、その動向を観察する。
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次年度の研究費の使用計画 |
該当なし
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