研究課題/領域番号 |
24730073
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
大澤 慎太郎 千葉大学, 法経学部, 准教授 (90515248)
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キーワード | 保証 / 担保 / 民法 / フランス法 / 金融機関 / 貸手責任 / 警告義務 / 倒産処理 |
研究概要 |
平成25年度における中心的課題は倒産処理手続に係る保証人の処遇についてフランス法の状況を把握することにあった。本目的のため、文献等の資料収集を行いつつ、近時のフランスにおける立法の状況について観察した。主な成果は次の通りである。 1 近時の立法動向としては、倒産処理時における保証人の優遇を強化する傾向がみられ、これは、いわゆる経営者保証について顕著である。この背景には経営者の救済による会社再建の促進といったこと等があるとされる。もっとも、保証人の経済的破綻の防止と破綻時における優遇とが揃えば、保証人を過剰に保護することにもなりかねず、そのバランスをいかに取るのかということが目下の検討課題となる。 2 本研究は保証人の保護に係る最適な規律を模索することにあり、その1つには過剰な保証債務をいかに減免するかといったものが含まれる。この点、フランス法における倒産処理法制の研究を通じて、保証のみならず、過剰な「物的担保」の倒産処理時における解放という視点を含めた、担保法制全般における過剰への対応という新たな知見を得ることができた。これは、副次的ながらも今後の研究を発展させる重要な成果である。この点については、「ABL法制研究会」での議論を通じて、平成26年度に成果を公表する予定である。 3 中心的課題に係る研究に加え、次のような成果も公表した。まず、平成24年度に行った「日仏民法セミナー」での報告の内容を『法律時報』85巻7号に公表した。また、これまでの研究成果から得られた保証の基本的性質に関する知見を踏まえ、最判平成24年12月14日(民集66巻12号3559頁)の検討を行い、わが国への示唆の可能性を模索した。成果については『千葉大学法学論集』28巻4号にて公表した。 最終年度となる平成26年度は、従前の成果を整理・統合の上で再検討を行い、保証人保護の規律に係る全体構造を提示する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度において予定されていた計画は、1「フランスにおける倒産処理手続に係る保証人の処遇に関する分析」および2「立法動向の調査」、ならびに、平成24年度において残された課題となった3「フランスにおける法人保証の研究」および平成26年度の中心的課題たる4「社会・経済構造に力点を置いた金融機関の融資行動の把握」の先行調査である。 まず、1および2については、研究実施の概要においても示した通り、近時のフランス法の動向について一定の知見を得られている(概要1参照)。特に重要なのは、副次的成果として得られた、担保法制全体を規律する「過剰」という視点である。これは、法令の現況の分析という、ある種の表面的な現象の検討が主となっている本研究において、より基礎理論的な基盤を与え、本研究全体の成果をより説得的なものとしうる(概要2参照)。加えて、3については、引き続き保証人となりうる主体の分析を中心に研究を進めているところ、平成24年度の報告書においても示した通り、平成26年度の中心的課題となる4の最終的な調査結果と併せて成果を公表することで目的は充分に達成可能である。また、中心的課題に加えて、研究成果を元にした最高裁判所判決の検討を通じて、わが国への理論的な示唆の可能性を模索できたことは、フランス法の分析に終始している本研究において大きな意義がある(概要3参照)。 もっとも、1については、この問題を検討する前提として、フランス法における倒産処理法制の概観を把握することが求められるところ、この点については、その複雑さ故に研究の遅れがあることは否めない。しかし、本研究の直接的な目的となっている保証人に係る規律の研究そのものに大きな遅延があるわけではなく、最終年度の成果の公表には影響はないものと解される。 以上から、全体目標の達成に向けて研究活動は概ね順調に進んでいるものと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度および同25年度の研究実施が比較的順調であったことを踏まえ、最終年度となる平成26年度は、全体として大きな変更無く研究を進めて行く予定である。具体的には以下の通りである。 1「社会・経済構造に力点を置いた金融機関の融資行動の把握」:保証制度の規律について分析を行うためには、社会におけるその具体的な役割や用いられ方についても検討を行う必要がある。金融機関による融資取引は保証が用いられる中心的な場面であり、その行動を把握することが、本目的の達成に資することとなる。本研究において、もっとも困難な作業の1つであり、最終的な結論の提示と併せて、平成26年度の中心的課題となる。 2「残された課題の検討および立法の動向の調査」:平成25年度までの研究計画において残された課題となっている、フランスにおける「法人保証の研究」および「倒産処理法制の把握」について、引き続き検討を行う。「法人保証の研究」は、1の課題と密接に関連するものであり、実際には、両者を1つの検討対象として扱い、研究を進めることになる。また、「倒産処理法制の把握」については、とりわけ、全体像の把握といった視点が重視されることとなる。併せて、本研究の中心的な作業の1つとなるフランスにおける立法動向の調査についても継続して行い、本課題および従前の成果を補完する。 3「結論の提示」:以上の研究および従前の研究成果を元にして、保証人保護に関する最適な規律の全体構造を検討し、これを提示することで、本研究の最終的な成果とする。なお、平成26年度は、「関西フランス法研究会」(平成26年8月)にて報告の機会を得ているほか、フランスにおける現地調査を予定している。前者はわが国の専門家による研究成果の客観的な検証の場となり、後者は実証的にこれを支えることとなる。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究成果の検証および平成26年度の中心的課題となる「社会・経済構造に力点を置いた金融機関の融資行動の把握」の先行調査を目的として、平成25年度にはフランスでの現地調査を行う予定であった。これにより、平成26年度は最終報告に向けた研究成果の公表の準備に注力する計画であった。もっとも、調査という点では、初年度の「日仏民法セミナー」を通じて予想を超える成果を獲得することができた。また、平成25年度には、同年11月に慶應義塾大学にて行われた「2013年度大陸法財団寄付講座」(第3テーマ「担保と保険」)にて通訳の機会を得られ、講演者からとりわけ保証の基本的性質に関する示唆を得られた。それゆえ、平成25年度に重ねて現地調査をせず、全体成果の検証を含めて最終年度これを行う方が、研究費の効率的な運用および研究の質の確保という点から、より望ましいとの結論に至った。残額が生じたのは、かかる事情による。 上記のような事情から、平成26年度の研究費は、まず、平成25年度に生じた残額を中心に、同年度内に実施予定であったフランスにおける現地調査を平成26年度において行うための費用として充当したい。併せて、「今後の推進方策」においても示したような、研究成果の客観的検証や情報収集を目的とした各種研究会への出張のほか、研究目的の達成に不可欠となる、国内およびフランスを中心とした海外の文献・資料の収集や各種消耗品の購入等に使用することとしたい。
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