研究課題/領域番号 |
24730078
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松中 学 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (20518039)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | 会社法 / 企業買収 / 法形成過程 |
研究概要 |
本年度は、当初の計画に沿って1.経産省による会社法に関係する法ルールの形成への関与について分析した。また、2.その際に参照したポリティカル・サイエンスの手法を用いたコーポレート・ガバナンスの研究について幅広く調査を行った。 1.会社法ルールに関して、経産省の官僚が一定のアクターと同様の政策選好を有していたとしても、委員会・研究会等の政策提言の形成の場において、他のアクターの合意をとりつける必要がある。とりわけ、インフォーマルな提言に力を持たせるためには、反対する強力なアクターがいると障害になる。このため、経産省が最終的に提示する政策は特定のアクターの利害に影響を受けることがあっても、それだけに支配されることはない。敵対的買収について既に指摘していたことを現在進行中の会社法改正や、かつてのMBO指針の形成など他の事例でも確認した。こうした研究を元に、経産省があたかも経営者の利害に沿った法ルールの形成を行うとは限らないという観点から、重要な先行研究であるCulpepperの著作を批評した。また、これまでの敵対的買収の法ルール形成についてまとめ、特に海外の先行研究の評価ほど、わが国の法ルール形成は経営者よりではないことを指摘した。 2.上記1.の過程で参照したポリティカル・サイエンスの議論は、Roeの研究から出発し、様々な分野の論者が参加して、近時、急速に議論が活発化している。そこで、今後の分析にも役立てるため、幅広いサーヴェイを行った。会社法を含むガバナンスに関する法ルールの変化に際して、ある問題のサリエンスに加え、政党、アクターの選好の変化と連合の成立が果たす役割も重要であり、政治制度も関わる面があることが浮かび上がってきた。これは今後の本課題の研究のみならず、近時の会社法改正など幅広い応用が期待できる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.当初の計画のうち、経産省の官僚の行動原理・選好については、参考となる研究が予想より少なく、分析が当初の計画より進んでいない。しかし、それ以外の経産省の会社法に関する政策提言の形成のメカニズムの分析については、計画どおりの進捗があった。また、研究の発表についても、計画どおりに進んでいる。 2.上記1.の研究に関して、様々なアクターがどのようにコーポレート・ガバナンスにかかる法ルール(会社法に限らない)の形成に関与するのか、どのような選好を有するのかを分析するために参照した、ポリティカル・サイエンスの議論が急速に進展しており、集中的にサーヴェイを行った。法ルールの形成のメカニズムを明らかにする社会科学的な分析だけでなく、規範的な議論でも参考になるものが登場しつつあること、政党の役割やアクターの行動を分析する議論は本課題以外にも極めて幅広く応用できる可能性があることなど、予想していた以上の結果であった。 3.以上のとおり、多くの部分は計画どおりに進み、他の部分には計画より遅れているものもある一方で、当該問題に関する調査から予想以上の成果が得られていることから、「おおむね順調に進展している」とした。
|
今後の研究の推進方策 |
来年度以降は、引き続き進展しつつあるポリティカル・サイエンスの研究の進展に留意しつつ、次のとおり研究を行う。 1.来年度:まず、金融庁の会社法に関する法ルールへの関与を分析する。ここでは、金融庁自身による法ルールの形成のみならず、他の形での法ルールの形成過程への関与、証券取引所の自主規制を通じた法ルールの形成についても検討する。本年度、証券取引所による自主規制の分析を素材とした研究により、一定程度の金融庁の影響があることを明らかにしたため、これを踏まえた検討を行う。 次に、当初の計画どおり、経済官庁による会社法ルールの形成への関与をどのように評価するのかという研究の一部として、アメリカにおける会社法ルールへのSECの関与について分析する。とりわけ、SECがどのような関与をしたのかを詳細に分析するというよりも、それが、なぜ、どのように評価されているのかを研究することで、わが国における経済官庁の関与の評価に際して参考にできるものとする。これらは、順次、口頭およびペーパーとして公表していくものとする。 2.翌々年度:それまでの研究を踏まえて、わが国の経済官庁による会社法ルールへの関与について規範的な検討を行う。また、最終年度であるため、成果の発表に重点を置く。特に、これまでの研究成果にもとづいたものも含めて、英語による成果発表を強化する。これは、海外でわが国が検討対象となった議論が英語によって多くなされているにもかかわらず、わが国の研究者によるこのテーマの英語の成果発表が多くないからである。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額が生じた(今年度の予定よりも少額しか執行しなかった)のは、発注する予定であった分野の洋書の発刊が予想より遅れたこと、和書の購入が予定より少なかったことが主な理由である(様々なテーマについて共通に用いられる和書で他の経費で購入したもの、寄贈を受けたものが当初の想定より多かった。本課題の遂行に必要な和書は入手している。)。また、発注していた洋書の納品に時間がかかっているのも一因となっている。 これらの研究費の今後の使用計画としては、次年度に当初の想定より多く洋書を購入する予定であることに加えて、海外での成果発表の機会が当初の計画より増えるため、次年度に支払われる経費と合わせて、このための経費(海外旅費および英文校閲)とすることで、より効果的に用いる予定である。
|