研究課題/領域番号 |
24730078
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
松中 学 名古屋大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (20518039)
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キーワード | 会社法 / 敵対的買収 / ルール形成 |
研究概要 |
本年度は、まず、これまでの敵対的買収に関する研究をまとめて、Law and Society学会において報告を行った。この中では、ルールを形成しているプレーヤー同士の相互関係、およびそれがルールの内容にどのような影響を与えるのかを明らかにした。具体的には、公式の権限を持たない経産省の役割と同省が出した報告等の影響、および証券取引所の背後に存在するアクター、ルール形成における選好について分析した。まず、経産省は経営者の利害を反映しているという見方は、当てはまる場面もあるものの一面的であることを明らかにした。また、官庁ではないが重要な役割を果たしているわが国の証券取引所は、外国人投資家の増加の影響もあり、他のルール形成者よりも株主・投資家の利益を反映するインセンティブを持っていることを示した。そして、実際に東証は、他のプレーヤーが提唱したルールのうち一部を株主・投資家(特に外国人機関投資家)の利益に反するとして否定した例があることを示した。敵対的買収のルール形成をめぐる仕組みから、仮に一定のアクターの利害を反映したルール形成を行おうとする官庁が参加していても、それを打ち消す仕組みが存在すれば、偏ったルール形成はなされにくいとの知見を得た。 また、研究課題に関係する周辺のルールについて研究を行い、順次、成果として公表した。さらに、2013年夏からは、政治学の研究成果を応用すべく、APSAの方法論セミナーに出席し、因果関係の推論を中心に事例分析に有用な知見を得た。また、この分野の政治学の主要な研究者であり、以前に代表者が書評を書いた図書の著者であるCulpepper教授と議論をするなど情報の収集を行った。2013年度後半では、敵対的買収以外のルールについても社会科学的な説明を行えるように、得られた知見をまとめる作業を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
敵対的買収に関する研究をまとめることができていること、それ以外のテーマの研究に着手できていることから、おおむね順調に進展していると評価できる。他方、政治学を中心とした社会科学的なルール形成の説明のための知見については、情報収集に集中したため、次年度に業績として公表することを目指す必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2013年度に得られた知見を中心として、敵対的買収近以外のルール形成についても検討を進める。本年度は本事業の最終年度であるため、業績の公表に重点を置いて研究を進める。 まずは、ルール形成のための社会科学的な説明のための議論について、2013年度に得られた知見をまとめて、何らかのサーヴェイとして発表する。 また、これらの知見を敵対的買収以外のルール形成に応用する一例として、会社法改正におけるガバナンスに関する要綱・法案の形成をとりあげる。特に、社外取締役の選任強制などを検討する予定である。我が国の会社法改正の形成過程を明らかにすることで、例えば、「社外取締役の選任強制は経済界の反対で失敗した」といった会社法改正をめぐる議論が正しいのかを検証する。また、ガバナンスをめぐるルール形成について提唱されている様々な議論のうち、どれが特に説明力を有するのか(あるいはそうではないのか)を我が国の事例で検証することで、他分野の理論へのフィードバックも目指す。 これらの研究は、まず、Law and Association学会や法の経済分析ワークショップなどで口頭発表を行い、批判や示唆を受けた後、旬刊商事法務、民商法雑誌などの邦語の法律雑誌で論文として発表する。また、特に政治学の理論へのフィードバックに関する研究は英語でとりまとめ、ローレビューなどへの掲載を目指す。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入予定の書籍の一部が年度内に刊行されていなかったこと、および購入予定の図書の一部について寄贈を受けたため、若干の次年度使用額が生じた。 購入予定であった図書で新年度に刊行されたものは、新年度に購入する。また、寄贈を受けたことで未使用となった部分については、当初は予算を超えるものとして購入を見送っていた事例研究の方法論に関する図書を購入する。
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