産休にともない、本年度は、後半に研究を再開し、引き続き、関係資料の収集に努め、その整理・分析するとともに、それらの内容を補充するために、関係者との意見交換も実施した。 外国の調査については、諸外国の状況を概観し、本研究課題の目的に照らし、経済状況を反映して、債権者保護の必要性が再認識されているドイツに焦点を定めることとした。具体的には、そこにおいて、会社経営を担う取締役の責任が、債権者保護の文脈で、どの程度の重みが置かれているか、具体的にどの範囲の行為に違法性が認められているか、法定倒産手続への移行の位置づけを、わが国の会社法429条1項をめぐる法状況と対照させることとした。また、わが国の会社法の議論において、債権者保護というテーマに対する関心が後退していることとは対照的に、ドイツにおいては、引き続き、あるいはますますその重要性が認識されていることの社会的背景をさぐり、同様のことがわが国にも当てはまりうるかを検証することとした。 経営危機時期の取締役の行為規範のあり方については、わが国の会社法429条1項は、中小企業の経営者に、会社債務の保証人的地位を与えてきたという評価が定着しているが、これは、中小企業の財産的基盤の脆弱さと、同条の責任が問題とされた裁判紛争の渦中にある中小企業においては、そのワンマン経営者が経営上の信用の源泉であるという認識に支えられていたものと考えられる。しかし、ドイツにおける、取締役の責任にかかる謙抑的な態度は、このような認識に基づき形成された責任規範を、株式会社一般の取締役の行為規範に還元するのは不適切であり、取締役は、出資者でも、個人企業主でもなく、労務を提供する企業経営にかかる専門職業人であることを出発点とすべきことを再認識させるものである。
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