会社法429条1項の責任は、我が国の会社法における債権者保護の一翼を担ってきた。しかし、同責任については、その基礎となる行為規範の精緻化が進んでこなかっただけでなく、事業の損益の帰属者ではない取締役が負担すべき責任の範囲も十分に明らかにされてこなかった。比較法的にみると、諸外国にも、経営悪化時の行動につき、取締役に民事責任を課す規律が存在する国が多いが、そのような国においては、取締役の経営悪化時における義務は、倒産法上の規律と位置づけられていることが多く、倒産法の理念を取り込む形で形成されている。我が国においても、同様の観点から、取締役の義務および責任を再構成する余地がある。
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