研究課題/領域番号 |
24730086
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
前田 太朗 愛知学院大学, 法学部, 講師 (20581672)
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キーワード | 民法 / 危険責任 / 過失責任 / 不法行為法 / 使用者責任 / 企業責任 / 比較法 / オーストリア法 |
研究概要 |
平成25年度は、オーストリア一般民法典(ABGB)に置かれる使用者責任、建物・工作物占有者の責任、動物保有者責任など各損害賠償規定それぞれについて、とりわけ、各規定を支える責任原理が、今日までの学説・判例によりどのように理解され、展開されてきたのかをみてきた。具体的にみていくと、使用者責任(ABGB1315条)においては、危険な性格を持つ者を、それと知りながら、業務の執行に用いる場合と執行する業務に不適格な者を用いる場合における責任を定めており、現在では特に後者が問題となる。後者については、不適格が、常習的に不適格な者であることが要請されるため、単に一回的な誤りを犯したり、重過失により損害を惹起したとしても、原則として常習性が認められない場合には、使用者は責任を負わないとされる。しかしこの不適格の認定は、一回的な誤りであっても不適格を認定する場合があり、緩やかに認定される傾向がある。また交通安全義務が使用者に課される場合にはその履行に補助者を用いるため、同条が広く用いられている。建物・工作物占有者責任(ABGB1319条)は、建物その他の工作物の占有者に対して、これらのものに瑕疵がある場合の責任を定めている。本条の責任の性質を巡って、学説および判例でそれぞれにおいて立証責任の転換された過失責任か、それとも危険責任かで争いがある。動物保有者責任(ABGB1320条)においても、ABGB1319条と同じく、責任の性質を巡る議論がある。しかしABGB1319条及び1320条においては、占有者・保有者が必要な注意を払ったかどうかが問題となっており、結局のところ交通安全義務の問題と密接にかかわっている。このように、交通安全義務の展開が書く責任規定の責任原理の理解に影響を与えると同時に、各規定の関係性を図る基準として機能しうるものであることが示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書においては、オーストリア法における危険責任の展開や特に製造物責任の展開を検討する予定であった。しかし前者に関してはすでに前年度においてある程度の検討が行われていたこと、そして、後者については、企業責任で問題となるテーマをカズイスティックにみていくというよりは、よりマクロな視点で、ABGBの各責任原理がどのように展開していくかを見ることで、オーストリア法において各責任原理の持つ独自性と関係性を明らかにすることができた。こうした検討と24年度で行った危険責任の検討とを対比することで、被害者保護の欠缺を、後者だけではなく、各損害賠償規定もその射程を広げることで対処してきたことが明らかとなり、また本研究課題が当初の目的としていたオーストリア法における企業責任論についても、これだけを取り上げ内在的に検討するよりも、いわば外からこの責任を見る視点を与えてくれ、相対的に企業責任を検討することが可能になったと考えられる。また3か年計画の2年目ということで、これまでの検討と併せて、具体的な成果の公表のために論文の執筆を行った。連載ではあるが、26年度中には、本研究課題によって得られた知見の全てを公表できる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度、25年度により、オーストリア法における危険責任、過失責任、その他の責任について全般的に検討することができた。従来あまり日本法に紹介されることのなかったオーストリアの損害賠償法に関して紹介を行うことで、一定の比較法的な資料を提供するができたといえる。26年度においては、より広い視点で、隣国であるドイツの不法行為法との比較、ヨーロッパの改正提案との比較を、していきたい。このことで、各国で展開した責任原理の独自性がわかると同時に、普遍性も導出されると考えられる。また合わせて現地の研究者とコンタクトを取り、インタビューすることも考えている。ここで得られた視点をもとに、最終的に日本法への示唆を導き出したい。 なお、スイス法も本研究課題で取り上げる予定であったが、2000年に出された改正提案が最終的に廃止され、それほど議論も進展していないことや、オーストリア法の各責任原理の展開を分析するのに時間がかかることが予想されるために、スイス法を個別に取り上げることは行わない予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は、24年度から継続して行ってきた分析をまとめる年であったため、その作業に時間がとられ、予定していたオーストリアでの資料収集やインタビューを行うことができなかったことから、旅費等の支出がなかった。また、改正に関する議論も比較的沈静化してきたため、それまでに入手していた資料で研究を進めることができたことから、図書の購入も、予定していたほどの支出を伴わなかった。 オーストリア法の各責任原理の展開について、ドイツ法との密接な関連性がみられるため、ドイツ法の注釈書、基本書、論文等を分析しそれと比較する必要があるため、これらを含めた、図書資料費、消耗品費に40パーセント、貴重書及びそのコピーの取り寄せの費用に20パーセント、国内研究機関での資料収集のための旅費として20パーセントを考えている。また本年度、オーストリアないしドイツでの資料収集、インタビュー等を予定しているため、海外出張費20パーセントを予定している。
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