平成26年度は、①オーストリアの損害賠償法の展開の中で重要な役割を担った第三者のための保護効を伴う契約法理、そして同法理にもとづいて判断された製造物責任の展開の紹介・分析、②近時までの交通安全義務の展開の紹介・分析、そして③前年度までの成果のまとめを行った。①に関して。1970年代後半から1990年代前半までの期間においては、学説及び判例により第三者のための保護効を伴う契約法理の拡張が認められ、製造物責任にも大きな影響を与えた。しかし、第三者のための保護効を伴う契約法理に基づく製造物責任の判断は、実務の展開によって、過失責任の限界、免責合意の消費者への効力、裁判管轄の問題があり、被害者の保護に欠缺が生じうるものであり、立法による解決を待たなければならないことを明らかにした。 ②に関して。1990年代以降、実務において第三者のための保護効を伴う契約の拡張に歯止めが欠けられることで、同法理の限界づけが明らかになり、オーストリア法において、ふたたび交通安全義務の担うべき役割が期待されるものとなった。ここでは、法人事業者に交通安全義務が課される場合には、加害行為者に関して機関の概念を拡大して法人に帰責する代表者責任の法理、及び組織編成過失の法理を援用して事件を処理する裁判例が広く展開し、要件が狭く、有用性が欠くとされる使用者責任規定を回避することで、不法行為法による事件の解決が広く展開いることを明らかにした。①及び②に関する成果については、後掲の実績報告書を参照。 ③に関して。平成24年度からの研究のまとめを順次行っている。オーストリア法においては、ドイツ法そして日本法と異なり、企業責任、事業者責任そのものに対応する概念は、法発展の中では見られず、個々に散見されるものであったが、近時では②に示した代表者責任の展開がみられるため、これを分析の中心に置いて研究成果をまとめたい。
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