研究課題/領域番号 |
24730088
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
伊藤 栄寿 上智大学, 法学部, 准教授 (30454317)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際研究者交流 |
研究概要 |
本研究は、共同所有制度が、景観・環境等を保全できる制度となりうることを明らかにすることを目的とする。平成24年度は、3カ年計画の初年度にあたり、第1段階として、日本における具体的な問題状況の検討、および、特殊な共同所有制度を採用する沖縄・久高島での実態調査(聞き取り調査)を行った。 第1に、区分所有制度について、景観・環境等を保全するための機能を果たしうる諸制度についての比較・検討作業を行った。その結果、日常的な管理、さらには、そのためのコミュニティ形成が、景観・環境等の保全のために何よりも重要であることが明らかとなった。そこから、法律上「管理」を義務化することが考えられる。ただ、共有制度において、管理を義務化することが理論的に問題を生じさせないかが今後の検討課題である。 第2に、沖縄・久高島について、共同所有制度により景観・環境等の保全が行われている理由を検討した。従来、その理由は「総有」という共同所有制度だといわれてきた。しかしながら、実態調査の結果、島の人々の島に対する「意識」こそが景観・環境等の保全の真の理由であり、「総有」は意識を明確化するための法的手段に過ぎないことが明らかとなった。今後は、久高島の状況を参考にしながら、どのように共有制度を維持するための意識を醸造できるかについて検討する必要がある。 第3に、日本の共同所有制度に大きな影響を与えてきた、ドイツ共同所有法について文献収集を行った。ドイツにおいて共同所有関係は主に債権関係として規定されているが、物権関係の観点から捉える新たな見解が生じている。この点、さらに詳しく検討を行いたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、(1)日本における具体的な問題状況の検討、(2)久高島についての実態調査を行うこと、(3)ドイツ調査に向けた準備作業、の3点を達成することを目標としていた。 (1)については、区分所有の諸制度を検討した結果、日常的な「管理」が重要であり、その実現手段として、管理を義務化することが考えられることが明らかとなった。 (2)については、実際に久高島での聞き取り調査を行うことができ、久高島で景観・環境等の保全されている理由が、共同所有制度というよりも、共同所有しようとする「意識」であることを明らかにすることができた。 (3)については、ドイツ共同所有制度に関する近時の教授資格取得論文を手に入れることができ、ドイツ調査の前提となる近時の議論状況の確認作業に着手することができた。 当初の目的としていた以上の3点を達成することができたため、研究は「おおむね順調に進展している」といえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、(1)区分所有制度について、紛争を防止し、景観・環境等を保全できる方法、(2)久高島の景観・環境等の保全手段の意義と限界、(3)ドイツ法を参考にした、景観・環境等の保全のための共有制度のあり方を検討する。 平成25年度は、上記(1)~(3)を明らかにするために次のような方策をとる。(1)について、区分所有の実態調査(聞き取り調査)を行い、景観・環境等を保全しているマンションにおける実際の管理、規約のあり方を検討する。(2)について、聞き取り調査内容を精査し、島の人々の意識の源がどこにあるのかを考察する。(3)について、ドイツの最新学説・裁判例の状況を把握するため、現地での資料収集を行う。 また、同時に、(1)(2)については、マンション学会の研究会、比較区分所有法研究会などで報告を行い、民法・区分所有法の専門家から、意見聴取を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
当初予定よりも物品費(パソコンの購入費用)が安くすみ、費用がかからなかったため、残金が発生した。円安のため、今後は図書(洋書)の物品費が当初予定よりも高くなることが予想される。そこで、残金は次年度の物品費の購入に充てることとしたい。
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