平成25年度は、近時の米国と日本の会社経営者等の責任の比較研究、および会社法と金商法上の訴訟制度の交錯から生じる法律問題の検討を行った。 近時の米国については、証券発行における投資家に対する責任に焦点を絞って考察した。具体的には、米国における地方債証券(Municipal Securities)の発行と引受人の責任に関する法律問題の検討を行った。研究においては、技術的な側面が強く理解が難解と言われている証券の適用除外制度の変遷を概観した後、現在、米国の債券市場において重要になりつつある地方債証券の規制枠組みの現状をフォローした。その上で、地方債証券は現在でもなおSECへの登録が原則として免除されている適用除外証券であるが、地方自治体などの破綻などによる債務不履行事例の経験から、発行者ではなく引受人の責任を加重することで投資家保護を図るという制度設計に移行しつつある同国の状況を紹介し、引受人に責任を負担させるという枠組みが今後も維持できるのか、また発行者に直接的な責任を課していない現行法の問題点を指摘した。 日本の状況に関しては、株主代表訴訟の対象となる「取締役の責任」の範囲を示した最高裁判例である最判平成21年3月10日民集63巻3号361頁の分析を通して検討を行った。この問題に関しては、従来は、いわゆる全債務説と限定債務説を対立軸として議論がなされてきたが、現在は、この両説の折衷的な有力説も提唱されているところであり、議論が絶えないのが現状である。これらを踏まえて、本問題は単にある学説に依拠した上で演繹的に答えを出すべきものではなく、多様化している取引の内実を踏まえた上で個別事例に即した上で解決すべき点を指摘した。 会社法と金商法の交錯による法律問題については我が国の臨時報告書等の虚偽記載に関する投資家訴訟と、米国のインサイダー取引に関する判例の検討を通して研究を行った。
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