26年度においては、第1に、前年度までに行う予定であった中国黒龍江省におけるラムサール条約の実施状況やその他の湿地管理プログラムに関する現地調査を行った。その結果、黒龍江省においては、自治体レベルで湿地管理や復元のための積極的な取り組みが行われており、ラムサール条約や中国国内の環境法制の実施を意識した形となっていることが分かった。しかしこの取り組みが具体的に、ラムサール条約の解釈にどのような影響を与えるかについてまでは、明らかにすることができなかった。 第2に、前年度に引き続き、ラムサール条約の適用範囲、およびその射程に関する理論的検討のため、資料や図書、二次文献などの読む込みと分析を行った。またラムサール条約の実施過程に関する締約国会議や科学技術検討委員会(STRP)の文書などを収集し、ラムサール条約が湿地帯以外のエリアにまで適用可能かどうかという問題に関連する部分に焦点を当てて検討した。その結果、前年度までと同様に、沿岸域の近くに存在する湿地の保全については、海洋環境保護との連続性が認められ、条約の適用範囲が海洋域まで含まれる可能性があることが分かった。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果として、ラムサール条約の実施過程において、海洋沿岸域近くの湿地については海洋環境とのリンケージが確認されるものの、内陸部に位置する流域内湿地と海洋環境との関係については、流域からの汚染の問題を除いてほとんど議論されていないことも分かった。これは両者の生態学的つながりが明確にしにくいといった自然科学上の課題もあるであろうが、ヒアリング調査の結果として、科学者の中での湿地と海洋の認識論的な区別、あるいは湿地や流域を専門とする科学者と海洋を専門とする科学者との間の知識や認識のギャップも大きく作用しているように思われる。以上の点についてさらに詳細に検討し、英文雑誌への投稿を準備している。
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