当該研究は、親密圏の変容・再編成において、人権規範がどのような役割を果たしているかを、法学的観点から明らかにすることを目的とした。具体的には、「家族領域」において自由化、およびジェンダーと性的指向に基づく平等化の流れが、近代家族とは異なる親密圏を構築しつつあることを明らかにしようとした。 性別役割に基礎づけられた「近代家族」とは異なる親密圏を構想する先行研究を整理し、「ケアの絆」に基づく「母子関係」の保護を主張する理論に着目するとともに、親密圏にも公共圏の建前である自由や権利を及ぼしていくという自由主義的アプローチも同時に求められると考えた。 次に、諸個人の権利を基礎にして親密圏をとらえることは、婚姻家族内の平等主義の追及には止まらないことを、裁判実践を取り上げて示した。例えばヨーロッパ人権裁判所は、婚姻は「お互いに対する、そして子に対する、認識可能な一連の契約的性質の権利義務をもたらす公的かつ法的な約束」であり、家族生活を作り出すという究極的な意思の表明とみなしている。婚姻そのものや性的関係があることよりも、互いに権利義務を負うという法的な拘束こそを本質と見ていることになる。このようなアンガージュマンを重視するアプローチは、婚姻外、さらに性愛抜きの関係にも拡大可能な論理を提供していることに注目すべきだろう。 また、子に対するケアの関係に対しても、自然的血縁に基づかないケアの絆への法的枠組の付与を求める動きは、親密圏において権利や平等を求める動きの中で追求されていることも示した。
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