研究課題/領域番号 |
24730100
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
畑中 綾子 東京大学, 政策ビジョン研究センター, 特任研究員 (10436503)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
|
キーワード | 非医療者 / 医行為 / 医療的ケア / 医師法17条 / 注意義務 / 法的責任 |
研究概要 |
本研究の目的は、在宅医療や学校教育など、医療現場の外で医療行為を必要とする患者が想定される場合での、非医療者による医療的ケアの在り方について、この行為の行政解釈の在り方を問うこと、なんらかの事故が発生した場合における、非医療者の注意義務の程度を検討することである。民事責任にかかわる重要な問題であり、刑事責任の有無なども含めた法のかかわりは、現場の介護士や学校教員にとって、そのケアを提供を躊躇するかどうかの重要な判断要素となりうる。 平成23年12月に介護保険法等の改正に伴い、学校において一定の研修を受けた教員による医療的ケアの提供が可能となり、特別支援教育だけではなく、普通学校においても同様の対応が可能となった。そこで、今年度は特別支援学校および一般学校における教員による医行為に焦点をあて、現在の研修の状況や、医療的ケアに関連する行為についての学校や教員の注意義務に関する事案を調査することとした。 普通学校では、看護師の配置による医療的ケアの提供を主にケアにあたることが目指される。しかしながら、自治体予算による看護職員の配置不足や、日常的に看護師が付き添うことが難しい場合には、生徒の学習機会が損なわれる可能性もあり、やはり教員による日常的な補助は要求されるであろう。但し、一定の研修が教員に要求されるにしても、一般学校の教員においては学級の生徒数も多く、通常の業務があることにかんがみると50時間の研修時間は現実的ではなく、10時間から20時間程度の研修が相当であることも示される。研修の態様などは今後の課題である。 2012年に食物アレルギーをもつ小学5年生の児童が給食によりアナフィラキシーショックを発症し、担任がエピペンの注射を行うべきところ、その判断が遅れ、生徒が死亡する事件が起きた。本件では、教員がエピペン注射を行う判断は難しかったものと思われるが、今後が注目される。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
医師法17条の解釈について厚生労働省や文部科学省のガイドラインが事実上大きな影響力をもっており、この法制度設計プロセスにおける議論を丁寧に追っていくことを最初のステップとしていた。交付申請当時のガイドラインでは非医療者の医行為について医師法違反の余地を残すようにも解釈上みえることから、介護士や教員など参入が期待される非医療者の業界対応が注目されたが、その後のガイドラインやまた、平成24年の介護保険法等の改正に伴い、実質的違法性阻却の原則から離れ、特定行為を正面から認める方向が整ってきた。 しかし、一方で医療的ケアの拡大に伴い、非医療者に課される法的責任の程度が問題となる。具体的には、平成24年12月に、調布市の小学校で生徒が食物アレルギーによるアナフィラキシーショックを発症し、教員のエピペン注射の遅れによる死亡が問題となったことがある。教員の医療的ケア提供の注意義務がどの程度求められるか、などを具体的な事件に即した検討が可能となった点で、当初の目的が達成されたと考える。 海外の動向としては、米国や北欧における非医療者による医行為に関する法制度の状況、および賠償・保険制度に関する文献調査を行うことを当初の目標とした。スウェーデンでは、グループホーム等の在宅介護の現場には、医師は往診などは行うが、配置はとくにされていない。かわりに看護・介護責任者が一人配置され、日常的なケアは、きの看護・介護責任者から権限移譲された介護保健士(日本の介護士とは異なる切り分けがなされている)が、行っていることが文献調査で分かった。この制度導入の際の新たな資格者の技術的担保、注意義務水準、経済的なインセンティブなど制度的な条件について制度導入の議論に学ぶところがある。
|
今後の研究の推進方策 |
国内の研究調査としては、医行為を非医療者に拡大していくことで民事賠償や保険制度との関わり、診療報酬、介護報酬などの経済的インセンティブとの関連性を検討する。保険会社は医行為を非医療者に拡大する際の責任保険制度の企画や、その制度による支払い確率等に関しての情報を集積している。現在、介護士や教員が加入する賠償・保険制度に新たな医行為がカバーされるか、この制度付与の場合の保険会社の料率設定や支払基準の変化があるかがポイントとなる。すなわち、非医療者に医行為が許されることは、保険制度を利用する非医療者や業界が増える可能性がある一方で、新たな事故やそれに伴う保険支払いが増大することで保険会社を圧迫する可能性もある。そこで保険会社による非医療者への研修教育のチェックや、保険支払いの対象となる救済の水準の点で、保険会社のマネジメントと救済機能についてヒアリング調査を行う。 一方で、医療事故賠償などでは、医師の専門職集団である医師会の役割が注目された。非医療者である介護や学校教員などの新たな業界団体による自律機能などについても調査を行いたい。 海外の動向としては、今年度文献調査をすすめたスウェーデンの介護保健士の利用にかかわる保険制度や医療制度、法的責任の整理などを進めていくこととする。スウェーデンと日本では、医療保険や介護保険制度の制度の違いにも注目しなければならない。スウェーデンの医療は、ランスティングという県レベルの単位で医療提供がなされているため、ランスティングごとの運用の違いにも注目したいと考える。
|
次年度の研究費の使用計画 |
今年度は、医事法学会などの関連学会の開催が、都内が多く、地方都市での開催を想定して見積もりを行っていた学会参加等に伴う交通費が当初の想定よりもかからなかったことから、来年度の研究費に振り向けることができた。 次年度は、日本刻兄の調査としては、学校での医療的ケアに注目し、特別支援学校での研修の状況や、一般普通学校での教員の活用状況などについてインタビューや現地調査を行うため、関連研究者との交流に必要な交通費や謝金などを支出予定である。 学校給食におけるアレルギー発症とエピペン注射については、事故報告書が出されたところでもあり、今後紛争として発展するかどうかは未知であるが、過去の類似凡例なども参考に、非医療者の注意義務の程度を考察する。文献調査、判例修習に伴う消耗品や書籍購入などを予定する。 旅費としては海外での研究調査を非医療者による医療的ケア提供の現場や、関連事業者団体、保険会社などにも調査に向かいたいと考える。
|