研究課題/領域番号 |
24730101
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
加毛 明 東京大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 准教授 (70361459)
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キーワード | 法学教育 / リーガル・リアリズム / 比較法 / 民法 |
研究概要 |
第一に、昨年度実施できなかった、米国コネチカット州のリッチフィールド・ロー・スクール(LLS)博物館・図書館での調査を行った。この調査から次の諸点が明らかになった。①学生の構成について。学生の多くはコネチカット州など北部出身であるが、南部のジョージア州などからも学生が集まっていた。②教授方法について。LLSの講義はブラックストンの『イングランド法註解』(1765-69)にそった私法を中心とするものであったが、同書が扱わない商法の講義も行われていた。教育の対象が州法ではなく一般的な法=コモン・ローとされたこと、学生団体による模擬裁判が行われていたことなどは後の時代の大学における法学教育との共通点である。他方、講義スタイルが教師が講義ノートを読み上げ、学生が筆記するというものであったこと、判例集などを読むのは望ましくないとされていたことなどは、ラングデル・モデルとの対比で、この時代の法学教育の特色であるといえる。③LLSの衰退の原因について。個人経営で経済基盤が弱かったこと、印刷技術の発達とともに講義ノートの筆記という講義スタイルが廃れたこと、法を自律的な存在と考え、他の学問分野との交流を持たなかったこと、などが1830年代にLLSが衰退した原因であった。これらの点は、次の時代の大学における法学教育を促進した事情でもあるといえる。 第二に、イェール・ロー・スクール(YLS)の成立と教育方法の変遷について、文献調査を行った。YLSも当初は実務家によって講義がなされていた。その内容はテクストを学生に暗記させ、教場で暗記した内容の説明を求めるというものであった。しかし19世紀半ばにイェールの学長を務めたウルジーによってYLSの改革がなされ、イェールの他学部の教員がYLSで講義を担当することになった。ここに、リーガル・リアリズムがYLSにおいて隆盛する一つの端緒があったといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
9月に行ったLLS博物館・図書館の現地調査は、非常に実り多いものであった。ライブラリアンの好意によって、当時の学生が筆記したノートや、学生団体による模擬裁判に関するルールなどのコピーを入手し、平成25年度後期は、その解読に時間を割いた。またリッチフィールド歴史協会のディレクターであるキャサリン・フィールド氏にインタヴューする中で、18世紀末から19世紀初頭において、LLSの近くにサラ・ピアス女性アカデミーという女性の教育機関が存在したこと、ここで学んだ女性とLLSの卒業生が結婚することも多かったことなどの教示を受けた。法学教育を社会のコンテクストの中で理解するためには、このような観点からの検討も必要であることを感じ、同氏に紹介された、いくつかの文献を収集し、検討した。 このように、現地調査の成果は大きかったが、反面その消化に多くの時間を費やすことになった。その結果、YLSにおける法学教育の展開については、文献での調査を行うにとどまり、現地調査や専門家へのインタヴューなどは次期以降の課題とせざるを得なかった。 またLLS博物館・図書館の調査結果を論文の形で公表することを目指したが、資料の解読に手間取り実現できなかった。この点も時期以降の課題とせざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、おおむね研究実施計画の通りであるが、平成26年度は、とくにYLSに対象を絞って、法学教育の理念の変遷とそれに対応する教育の具体的内容を明らかにすることを目指したい。その際、平成25年度の調査によって明らかになったウルジーの法学教育改革と、20世紀初頭以降の法学教育の関係について留意することとする。LLS博物館・図書館訪問を通じて現地調査の重要性を感じたところであるので、YLSの法学図書館における調査及び専門家のインタヴューを行うこととしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度に予定していたイェール・ロー・スクールでの現地調査を行うことができなかったため。 イェール・ロー・スクールでの現地調査を行うとともに、私法を中心とする法学教育にかかわる文献を購入する。
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