研究課題/領域番号 |
24730105
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
小澤 久仁男 香川大学, 法学部, 准教授 (30584312)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 環境法上の団体訴訟 / 環境・権利救済法 / 行政訴訟制度 / 原告適格論 / オーフス条約 |
研究概要 |
平成24年度は、環境・権利救済法(2013年に環境・権利救済法の改正案が成立しており、それ以前の同法)上の団体訴訟制度にかかわる研究を行い、これについての成果として論文を公表した。 同論文においては、以下の点に関して分析を行った。まず、①同法が制定された経緯として、オーフス条約およびこれを実現するための各EC指令について取り上げた。これらにより、欧州においては、情報アクセス権、公衆参加権、そして司法アクセス権を通じた環境法全体の権利保護制度の基本的枠組を形成しようとしており、これらを実現するべく、環境・権利救済法が制定されることになったという経緯を明らかにした。 次に、②以上のような欧州の動向を受けて制定されることに至った環境・権利救済法の規定を自然保護法上の団体訴訟制度との異同も含め、取り上げた。これらにより、環境・権利救済法上の団体訴訟制度の特徴としては、ドイツ連邦自然保護法上の団体訴訟とは異なり、「個人の権利を根拠づける」規範の侵害を必要とするという制限を加えている点を強調した。また、一部の領域においては、自然保護法および環境・権利救済法の2つの団体訴訟を提起することが可能であり、両者の優劣が問題となる。この点について、環境・権利救済法は多くの環境利害を対象としているのに対して、連邦自然保護法上の団体訴訟は、自然保護法上の利害にのみ限定されることから、自然保護法が適用されない場合に限り環境・権利救済法を適用すべきであるとする判例などを取り上げた。 以上の分析の結果、環境・権利救済法においては、まず、全体としての権利保護制度の中に団体訴訟を位置付けようとしていることを示した。そして、そのような点がまさしく、ドイツの伝統的行政訴訟体系の枠組みを基本的に維持しつつ展開されている環境法上の団体訴訟の特色であるとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、環境・権利救済法における団体訴訟が、どのような経緯を受けて誕生し、加えて、連邦自然保護法上の団体訴訟と比べてどのような相違点を有するのかを探っていくことによって、ドイツ環境法・行政法上では権利救済制度をどのように方向付けようとしているのかを考察していく足がかりとすることを目的としている。 この点、平成24年度研究においては、環境・権利救済法の制定経緯およびそこでの規定内容に扱った。それゆえ、現在までの達成度としては、概ね順調に進展しているものと判断している。 そして、平成24年度研究をベースに、平成25年度研究においては、2013年度に改正された環境・権利救済法の規定内容についての研究を第一に行う。これにより、同法において改正された部分が明らかとなる筈である。これと共に、改正される前からすでに議論として存在していた環境・権利救済法上の団体訴訟によって、環境親和性審査の主観化について取り扱っていきたいと考えている。このような議論を取り扱うことにより、まさに主観化されたかどうかが重要ではなく、主観化されているかどうかの議論が登場しているそれ自体が、ドイツ環境法・行政法上の伝統的な権利救済制度を踏襲しているものと、申請者は理解している。つまり、ドイツにおいては、伝統的な権利救済制度を前提に団体訴訟制度が登場してきているということを明らかにしたいと考えている。これらにより、上記の目的が達成することになる。
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今後の研究の推進方策 |
2013年には環境・権利救済法の改正案が成立している。このような改正作業が行われることになった契機として、2011年3月の欧州裁判所による環境・権利救済法がオーフス条約および各EC指令の規定を十分国内法化していないとする判決を挙げることができる。そこで、平成25年度は、まず、これらについての研究を行う予定である。 これに加えて、近年、環境・権利救済法においては、承認された環境・保護団体の参加が侵害された場合に提起される手続法上の団体訴訟が導入されている。同法は主に環境親和性審査を訴訟対象としていることもあって、現在、ドイツにおいては、環境親和性審査の主観化が議論されるようになってきている。この点、環境・権利救済法が制定される以前のドイツにおいては、環境親和性審査の瑕疵それ自体の独立の審査が否定されてきた。それゆえ、環境・権利救済法において手続法上の団体訴訟が認められたことで、環境親和性審査の瑕疵の主観法上の向上を果たしているのかどうか問題とされるに至った訳である。 そこで、平成25年度の研究においては、環境・権利救済法における手続法上の団体訴訟の展開およびその位置付けについて見て行くことにする。その際、まず、ドイツ行政法における手続的瑕疵の制度および連邦自然保護法における手続法上の団体訴訟の展開を整理していく。これにより、環境・権利救済法が導入される以前の手続的瑕疵へのドイツの理解が明らかとなる筈である。次に、環境・権利救済法の規定内容について概観をしていく。これにより、本稿で扱う、環境親和性審査の主観化という議論の対象が明らかになる筈である。これらの考察により、環境親和性審査の主観化が果たしてなされたのか否かについて、ドイツの議論を踏まえて扱っていく。これらにより、わが国における行政訴訟の議論にどのような示唆があるのかを示していきたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費の使用計画としては、環境・権利救済法が改正されたことから、文献の収集を第一としたいと考えている。また、ドイツ環境法・行政法上においては権利救済制度をどのように方向付けようとしているのかを考察していくことも踏まえ、これまでドイツ行政法を範としてきたわが国行政法学の文献の購入にも充てていきたいと考えている。なお、ドイツ語文献およびドイツの議会資料などについても、最新のものを収集したいと考えているため、旅費の一部をその収集活動のために充てたいと考えている。
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