研究課題/領域番号 |
24730106
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
安東 奈穂子 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 専門研究員 (50380655)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | パブリシティ権の認知過程 / パブリシティ権の最高裁判決 / 人格権由来のパブリシティ権 / 実演家の人格情報の保護 |
研究概要 |
本研究では、死者の肖像を手掛かりに、判例の分類と整理、実務の現状への考察などをとおし、肖像権やパブリシティ権、死後に生み出される利益の正当な帰属先を探求することを目的とする。よって、当該年度では、人格情報を扱った判例の整理と分析並びに死者と生者の比較、実務でのパブリシティ権管理などについて考察する計画であった。 そこでまず、該当する判例を洗い出し、要旨、権利・利益の表現及び法的性質、引用判例、侵害の判断基準、差止請求の根拠などを抜き出したうえ、表を作成して、これらの項目の経緯を明らかにし、裁判所の考え方の継承及び変化、判例相互間の影響の授受の程度などを調査し分析した。 一方、研究計画調書提出後に、本研究の中心的権利であるパブリシティ権を、最高裁が初めて認め、人格権に由来する権利とした画期的な判決が下った(最判平24年2月2日民集66巻2号89頁)。さらに、最高裁の「人格権に由来」との指摘をいかに解するか(純粋な人格権か、何らかの形で財産権も含みうるか)が、論点として浮上した。したがって当該年度は、当初の計画にプラスして優先的に、本最高裁判決の論点、パブリシティ権の認知過程における意義、及び人格情報の保護をめぐる今後への示唆を考察した。 一連の作業から、特にパブリシティ権について、これまであまり言及されてこなかったが、その認知過程は、黎明期、成長前期、成長後期に区分することができ、先の最高裁判決及び判例全体の流れからも、今後は発展期へとステージが移っていくとの結論を得た。こうした成果は、久留米大学市民講座での講演や査読付きの雑誌論文として公表し、図書「実演家概論」掲載の論文では、著作隣接権との対比や権利を集中管理する実務の視点をくわえて、パブリシティ権の将来像(「情報価値コントロールの意思決定に対する権利」と「情報価値産出利益の帰属先に対する権利」との支分権化)を提起した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画調書提出(平成23年10月)の後に、本研究において中心的な権利であるパブリシティ権について、最高裁が初めて認め、人格権に由来する権利と述べるという、画期的な判決が下った(最判平24年2月2日民集66巻2号89頁「ピンク・レディー事件・上告審」)。パブリシティ権の法的性質をめぐっては、人格権か財産権かで判例も学説も分かれていたところ、本最高裁の「人格権に由来」の言葉をどのように解するか(厳密な意味で純粋な人格権か、いまだ何らかの形で財産権も含みうるのか)が、論点として浮上したのである。 パブリシティ権がこのように大きな節目を迎えたことを受け、本研究の目的である、死後に人格情報から生み出される利益の正当な帰属先を探求するためにも、当該年度は、当初の計画にプラスして優先的に、本最高裁判決の注目すべき論点、パブリシティ権の認知過程における意義、及び人格情報の保護をめぐる今後への示唆を考察することが必要となった。 最高裁判決という重要な考察対象を新たに得たことによって、パブリシティ権の認知過程を三段階に分けて今までにない手法で明らかにしたり、人格情報の的確な保護と円滑な利活用に向けた権利の将来像を展望するにあたり有用な示唆が得られたりと、本研究の遂行に必要不可欠な効果をもたらたす、たいへん良い側面もあった。ただし一方では、当初の計画に無かった考察及びその成果の論文執筆に時間を費やしたことなどから、死者からの視点を前面に押し出した検討と、それを形にして公表することが予定よりも遅れてしまっている。その他の点ではおおむね順調に進んでいるので、現在までの達成度について、「やや遅れている」との上記の区分を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
たしかに当初の計画からはやや遅れているものの、最高裁判決という重要な考察対象を新たに得たことは、今後の研究の大きな推進力になるものと考える。 特に、当該年度に、本最高裁判決の注目すべき論点、パブリシティ権の認知過程における意義、及び人格情報の保護をめぐる今後への示唆を考察した結果から、本研究の最終的な到達目標と当初から定めていたパブリシティ権の支分権化(「情報価値コントロールの意思決定に対する権利」と「情報価値産出利益の帰属先に対する権利」)が、前向きに肯定できるという手ごたえを得るに至っている。 これに、今後、死者の権利保護の視点からの考察(当初から計画していたアプローチである死者の名誉や人格権、及び本研究の過程で見えてきた課題である死者の慰謝料請求権の相続や一身専属性の再考)をくわえてさらに推進させることにより、パブリシティ権の人格権性をどの程度までどのように認めていくべきかの方向性が得られ、パブリシティ権をこのように支分権化した場合の、譲渡、相続、死後の存続期間、死後の差止めについて、より具体的に説得力を持って提示することが可能になると考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度使用額(B-A)について、当該年度で、その約半分はパソコンに、残りは洋書の購入に充てる予定であった。 実は、平成24年10月頃から、使用していたパソコンが異常に熱をもったり画面が縦ぶれしたりする等、調子が段々と悪くなり購入を考えなくてはならなくなったが、当該年度中に適当なものを探すことができず見送った。よって、次年度早々にも、元々予定していた金額内で購入することにしている。これにより、ホームページの作成などもスムーズに行うことができるようになると思う。 また、平成25年に入って、当初計画していたアプローチにくわえ、死者の慰謝料請求権の相続という新たな視点や、人格権の一身専属性の再考の必要性などを認識するに至り考察にとりかかった。そのうち、民法や人格権をより幅広く探究することが求められ、図書(特に高額な洋書)の購入を考えなくてはならなくなった。ただし、平成25年度の実施計画では、アメリカやヨーロッパなど諸外国の動向を考察の対象にしており、こちらでも高額な図書を購入することが予想される。そこで、翌年度に請求する研究費のうち図書購入に充てる予定の額と、次年度使用額から前述のパソコン購入費を差し引いた額を合わせ、よく検討したうえで購入することとしたい。
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