本研究は、肖像権やパブリシティ権に関する判例の分類と整理、実務の現状への考察などをとおし、死後に人格情報から生み出される利益の正当な帰属先の探求を目的とする。 まず、該当する判例を洗い出し、要旨、権利・利益及び法的性質、引用判例、侵害の判断基準、差止請求の根拠などを抜き出したうえ、年表を作って、項目ごとに経緯を明らかにし、裁判所の考え方の継承及び変化と区切り、判例相互間の影響の授受の程度などを調査し分析した。一方、研究期間中、最高裁が初めてパブリシティ権を認め、人格権に由来する権利と述べ、本判決の論点、意義、及び人格情報の保護の在り方を考察する貴重な機会を得た。 また、パブリシティ権の認知過程は、黎明期、成長前期、成長後期に区分でき、先の最高裁判決及び判例全体の流れから、今後は発展期へとステージが移っていくとの結論を導いた。さらに、その発展期における権利の将来像について、パブリシティ権は人格権と(知的)財産権が立体的に重なり合う部分に位置付けうるとの見解に基づき、パブリシティ権を、「情報価値コントロールの意思決定に対する権利」(人格権)と「情報価値産出利益の帰属先に対する権利」(知的財産権)に支分権化する案を示すに至った。これにより、支分権化された権利のうち、前者は譲渡できないものの、後者は本人の死後にかぎり譲渡の余地が残され、すなわち本人以外で情報に付加価値を付けた者が、当該情報から産み出される利益の帰属先になる可能性を示唆することもできた。 今後は、死者の慰謝料請求権の相続や人格権の一身専属性の再考をいっそう深め、パブリシティ権を支分権化した場合の、譲渡、相続、死後の存続期間、死後の差止めについて、より具体的かつ説得力を持った提示を試みる。くわえて、パブリシティ権をとおした人格情報の保護の在り方が、人格の関連する知的財産(著作物や実演)にどう波及するか注視していきたい。
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