研究課題/領域番号 |
24730109
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿毛 利枝子 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (10362807)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 住宅政策 / 比較政治学 / 福祉国家 |
研究概要 |
本研究は、わが国の住宅政策の特徴を他の先進各国との比較において明らかにした上で、その規定要因を分析する。これまで政治学分野では、住宅政策をめぐる研究はそれほど蓄積されてこなかったが、先進各国の住宅政策は福祉国家分野で大きな影響力をもついわゆる「福祉国家の3類型」論からは説明ができない。実際的にも、1980年代後半の日本のバブルや、最近ではリーマン・ショックがいずれも「土地」「住宅」を背景に生じたことを考えると、政治学においてもより本格的に研究が行われる余地がある。住宅政策を説明する上では、①保革対立の展開、②都市・農村関係、③戦前からの制度遺産、という3つのアプローチを参考にする。 研究一年目の平成24年度は、主として戦後日本の住宅政策の展開について文献調査を行った。日本の住宅政策はどのような特徴をもち、どのように変化してきたのか。住宅政策は国レベルのみならず、地方、とりわけ都道府県レベルでも展開されるため、国レベルの政策と地方レベルの政策の双方について文献を読み込み、重層的な理解に努める。 研究においては、とりわけ戦後日本の住宅政策の方向を決定づけることとなった、戦後10年間を重点的に調査し、一次資料・二次資料を収集しつつ丹念に読み込んだ。その上で、この時期の日本における住宅政策の展開を説明するために、①保革対立の展開、②都市・農村関係、③戦前からの制度遺産、という3つの仮説の妥当性を検討した。調査の結果、日本の事例をみる限りでは、戦後初期の日本の住宅政策の展開については、②都市・農村仮説と、③戦前の制度遺産が大きな影響を与えている可能性が示されたが、とはいえ日本一国だけでなく、他の先進諸国との比較で検討した場合にこれらの仮説が当てはまるかどうかは、より詳細な比較分析を行ってみないと分からない。次年度には本格的に国際比較分析を行う予定であるので、より詳細に分析を続けたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の平成24年度は主として二つの作業を予定した。まず中心作業は、戦後日本における住宅政策の態様・変化に関する文献を読み込むことである。日本の住宅政策はどのような特徴をもち、どのように変化してきたのか。住宅政策は国レベルのみならず、地方、とりわけ都道府県レベルでも展開されるため、国レベルの政策と地方レベルの政策の双方について文献を読み込み、重層的な理解に努める。第二に、年度の後半には、日本における住宅政策の特徴を比較の枠組みにおいて理解するために、他の先進諸国の戦後の住宅政策についての文献の読み込みも始める。日本の住宅政策は他の先進諸国と比較して、どのような相違があるのか。またその変化の態様やタイミングはどのように似ており、どのように異なるのか。主としてヨーロッパ諸国を中心に調査を文献を読み込む。 これらの計画は概ね達成されたと考える。日本の住宅政策については、一次資料・二次資料を読み込む作業を行い、その途中成果は11月にSocial Science History Associationにて報告した。この学会は政治学者のみならず、社会学者・経済学者も参加する学際的な学会であり、やはり社会学的・経済学的側面をもつ本研究には格好の発表の場である。研究の早い段階で多様な分野の専門家からフィードバックを得たことは非常に有益であり、今後の研究に大いに活きるものと考える。 また研究を行う中で、住宅政策の規定要因のみならず、その結果についても検討する必要を感じ、その成果は3月にアメリカで開催された学会にて発表した。 ヨーロッパ諸国の住宅政策についても概ね予定通り文献調査を開始した。住宅政策は多面的な側面をもつので、必ずしも数値的な指標に馴染むかどうかは定かでないが、二年目以降、計量分析を行う可能性も睨み、国際的に比較可能な住宅政策の指標の構築の可能性も視野に入れて検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、大きく二つの作業を予定する。第一に、前年度に始めた、戦後先進各国の住宅政策をめぐる文献を読み込む作業を継続する。第二に、読み込んだ文献をベースに、わが国における住宅政策の態様とその変化を比較の観点から説明するために、要因の絞り込みを始める。わが国と他の先進諸国における住宅政策はどのような要因によって形成され、どこまでが共通の要因に、またどこまでが固有の条件によって左右されてきたのか。保革の対立軸、都市・農村の対立軸、戦前からの政策遺産という3つの観点をベースに、文献を読み込む。ここでは主として比較事例分析を行う予定であるが、可能な限り計量分析も組み入れ、事例分析と併用したい。異なるアプローチを重層的に組み合わせる方が、仮説の説得力を高めることができるからである。ただ「住宅政策の内容」が数値的な指標化になじむか否か、必ずしも現段階では定かではない。万が一計量分析が可能ではないと判明した場合は、可能な限り多くの国々について事例分析を行うことで、仮説の確実性を担保する予定である。その上で、早い段階で成果を国内外の研究会や学会などで公表し、意見交換を図りつつ、必要に応じて柔軟に軌道修正を図りたい。 事例としては、ドイツ・スイスのように持ち家比率が低く、賃貸率の高い国々は日本との比較の上で重要であり、重点的に関連文献を読み込みたい。またイギリス・オランダといった国々も、日本と同様、住宅の再建が戦後大きな課題となったという歴史的事情が共通することから、重視する予定である。 また初年度には、住宅政策の規定要因のみならず、そのインパクトについても検討する必要性を感じた。この点を詳細に論じることで、そもそも住宅政策の規定要因を探る意義をより説得的に主張できるからである。そこでこの点についても次年度以降、日本のみならず、他の先進諸国も視野に入れながら研究を続け、成果を公表したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に引き続き、25年度もヨーロッパ諸国の戦後の住宅政策の展開について、文献研究を重点的に行う予定である。このため、書籍の購入に経費が必要となる見込みである。また25年度には先進各国の住宅政策の規定要因をめぐるデータ分析も視野に入れているので、データ入力について、必要に応じて補助者の協力を仰ぎ、作業の効率化を図りたい。このため補助者への謝金も必要となる見込みである。研究2年目の成果の発表については、申請者は国内のみならず、海外でも成果を発表し、意見交換を行うともに研究の修正を図り、より質の高い研究へと仕上げたい希望である。とりわけ、本研究においては、日本とヨーロッパ諸国との比較を視野に入れているため、ヨーロッパの学会に赴いて成果を公表し、現地の研究者からフィードバックを得ることが有益であると考える。そこで、平成25年の夏にはヨーロッパの学会にて成果発表を行うべく、現在計画中であり、そのための旅費が必要となる見込みである。 なお、ヨーロッパ諸国の住宅政策を調査する上では、国内では入手困難な文献な資料や情報を得るために、現地で調査も必要となることが予想される。この点については、ヨーロッパにて成果発表を行った際に、併せて現地での文献調査や聞き取り調査も行うことで、研究経費の効率化を図る予定である。 なお、研究初年度の平成24年度には、日本の住宅政策をめぐる調査・研究について当初想定していた以上に時間がかかってしまった。年度内にはなんとかめどをつけることができたが、その影響で、年度中に進める予定であった、ヨーロッパ諸国の住宅政策をめぐる調査・研究がやや当初の計画よりも遅れをとってしまったことは否定できない。とくに初年度の物品費に余りが出てしまったのはこのためである。ただ、春休み中に研究を加速することができたため、この遅れは次年度(平成25年度)には取り戻せる見込みである。
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