研究課題/領域番号 |
24730109
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鹿毛 利枝子 東京大学, 総合文化研究科, 准教授 (10362807)
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キーワード | 住宅政策 / 比較政治 / 福祉国家 |
研究概要 |
本研究は、わが国住宅政策の特徴を他の先進諸国との比較において明らかにした上で、その規定要因を分析する。これまで政治学分野では、住宅政策をめぐる研究はそれほど蓄積されてこなかったが、先進各国の住宅政策は福祉国家分野で大きな影響力をもついわゆる「福祉国家の三類型」論からは説明ができない。実際的にも、1980年代のバブルや、最近ではリーマン・ショックがいずれも「土地」「住宅」を背景に生じたことを考えると、政治学においてもより本格的に研究が行われる必要がある。 研究2年目の平成26年度は、二つの作業を予定した。一つは、前年度に引き続き、戦後先進各国の住宅政策をめぐる文献を読み込む作業を続けることである。第二に、読み込んだ文献をもとに、わが国における住宅政策の態様とその変化を比較の観点から説明するため、要因の絞り込みを始める作業である。 第一・第二の作業ともに順調に進展した。前年度に引き続き、戦後先進各国の住宅政策をめぐる多くの文献を読み込むとともに、読み込んだ文献をもとに、わが国を含めた先進諸国の住宅政策の態様を説明する要因の絞り込みを始めた。これらの作業については、短期間ではあるが、海外でも調査を行うことができ、国内では入手困難な情報を得ることができた。また研究を進めるうちに、住宅政策の説明をするだけでなく、住宅政策の及ぼす多面的なインパクトもあわせて検討する必要性にも気づいた。住宅政策は、持ち家政策などを介して、国毎の居住形態に大きな影響を及ぼすだけでなく、社会意識面にも重要な影響を及ぼしうる。そして政策立案者は、住宅政策を考案・設計する際に、社会意識面まで考慮している可能性もある。そこで2年目には、先進諸国における住宅政策の態様を説明する要因の解明する作業と併せて、住宅政策が市民意識に及ぼすインパクトを多方面から明らかにする作業にも着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究二年目の本年度は、前年度に引き続き、先進各国の住宅政策に関する文献調査を行い、先進諸国における住宅政策の特徴をめぐる具体的なイメージを固めることができた。また、先進諸国の住宅政策の相違を説明する要因を絞り込む作業も始めることができた。ドイツ・イギリス・カナダ・アメリカなどで短期間の資料調査も行うことで、さらに具体的なイメージも膨らませることができるとともに、住宅政策の形成要因についても、日本国内では入手困難なさまざまな資料を入手することができた。これらの作業は予定通り、順調に進展している。 同時に、研究を進めるうちに、住宅政策の規定要因を解明するだけでなく、住宅政策のインパクトを、とりわけ市民意識面にまで踏み込みながら、多面的に明らかにする必要性を感じ、その作業にも着手した。これは当初予定していなかった作業であるが、各国の住宅政策が社会意識に対するインパクトまで考慮して考案されている可能性も考慮すると、3年目以降のためにも必要な作業であると考える。この住宅政策の市民意識面へのインパクトについては、二本の論文について海外で学会発表の機会を得て、貴重なコメントを頂くことができた。論文一本は25年度中に公刊され、もう一本は26年度中に公刊が決まっており、着実に成果を出すことができている。
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度の今年度は、大きく三つの作業を予定する。第一に、前年度までに読み込んだ文献をベースに、先進各国における住宅政策の規定要因を絞り込む作業を継続する。その際、とくに3つのアプローチを参考にする。①保革の対立軸の展開、②都市・農村の対立軸、③戦前からの政策遺産である。第二に、前年度に引き続き、住宅政策の社会意識に対するインパクトの検討を行う。第三に、研究のまとめの作業に入りたい。 第一の作業については、これまでに行った日本の戦後初期の住宅政策の分析からは、②都市・農村の対立軸と、③戦前からの政策遺産が大きな影響を与えている可能性が示されている。しかしこれらの要因が日本一国を超えて、先進国全般についてもどこまで当てはまるのか、あるいは別の要因も考慮する必要があるか否か、丁寧に分析を進めたい。これらの分析については、基本的に事例分析を用いる予定であるが、必要に応じて、計量分析を行う可能性も視野に入れたい。二つの異なる分析手法を組み合わせることで、より分析の確実性を期すことができると考えるからである。
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次年度の研究費の使用計画 |
残額が生じている理由は、平成25年度末から26年度初頭にかけて、春休みを利用して、学会報告と資料調査のためにアメリカ・カナダへの出張を予定していたが、学会に先立ち、予期せずハーバード大学より先方負担にてシンポジウムのパネリストとして招聘を受けたため、東京=北米間往復の旅費が浮くこととなった(報告を予定していた学会には本科研を利用してハーバードから移動)。またアメリカで予定していた現地調査の一部も、ハーバード大学負担でのアメリカ滞在中に行うことができたため、この分も旅費も浮くこととなった。 この分については、当初は予算的に困難であった海外調査や海外での学会報告に充てることで、有効に活用する予定である。最終年度の今年度は7月にシンガポールで開催されるAAS-in-Asia学会にて、また11月にトロントで開催予定のSocial Science History Associationで報告を予定しており、それぞれアジア圏の地域研究者、北米圏の政治学者や社会学者からフィードバックを得る予定である。これらに加え、日本と大きく異なり、持ち家政策よりも賃貸住宅を重視する政策をとってきたヨーロッパでの現地調査を行うとともに、可能であれば学会報告も行い、現地の研究者からもフィードバックを得ることで、分析の精緻化を図りたい。
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