本研究は、わが国の住宅政策の特徴を他の先進各国との比較において明らかにした上で、その規定要因を分析することを目的とした。これまで政治学分野では、住宅政策をめぐる研究はそれほど蓄積されてこなかったが、先進各国の住宅政策は福祉国家分野で大きな影響力をもついわゆる「福祉国家の3類型」論からは説明ができない。実際的にも、1980年代後半の日本のバブルや、最近ではリーマン・ショックがいずれも「土地」「住宅」を背景に生じたことを考えると、政治学においてもより本格的に研究が行われる余地がある。 研究3年目の本年度は、前年度に引き続き、二つの作業を行った。第一に、わが国における住宅政策の態様とその変化を比較の観点から説明しうる要因の分析を継続した。第二に、住宅政策が社会意識に及ぼすインパクトをめぐる分析を前年度に引き続き行った。 第一・第二の作業ともに、概ね順調に推移した。第一の作業については、とくに政党政治の重要性が浮き彫りとなった。とりわけ国際比較の観点からは、社会民主主義政党に対する保守政党の強さが持ち家政策に繋がりやすいことが浮き彫りになり、わが国においてもこの点が当てはまることが判明した。この議論については、すでに論文を執筆しており、公刊に向けて準備を進めているところである。 第二の作業としては、持ち家の有無が、わが国の民主主義制度に対する信頼や、対外意識などの社会意識に及ぼす影響などについて、多面的に分析を行った。持ち家の有無がわが国の民主主義的制度への信頼に及ぼす影響については、通説に反して、持ち家の所有はわが国の民主主義的諸制度に対する信頼に有意な影響を及ぼさないとの分析結果が得られた。この分析は、平成26年度に論文の形で公刊することができた。また対外意識についても、数度にわたり国内外の研究会や学会で報告を行い、フィードバックを得て、現在投稿に向けて準備中である。
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