研究課題/領域番号 |
24730120
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
土肥 勲嗣 九州大学, 法学(政治学)研究科(研究院), 専門研究員 (00507973)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 合意形成 / 河川政策 / 公共事業 / 公共政策 / 調整者の制度化 |
研究概要 |
本年度に実施した研究成果は次の通りである。 第一に、日本における公共政策をめぐるステイクホルダー(利害関係者)間の対立と調整のメカニズムを明らかにするために、おもに川辺川ダム事業(熊本県)、八ッ場ダム事業(1都5県)についての事例研究(資料収集および資料分析)をおこなった。2つの事例を比較することによって、官僚制、政党政治、地方自治における共通点、相違点が浮き彫りとなり、特に地方政治における合意形成が事業の継続・中止を決める主要な要因であることが明らかとなった。成果の一部は韓国で開催された国際学会において報告をおこなった。 第二に、日本におけるダム開発をめぐる対立と調整のメカニズムを解明するために、改正河川法に関する関係者への聞き取り調査を実施した。1997年河川法改正時の河川官僚や研究者への聞き取り調査をおこなった結果、改正河川法の意義づけについて関係者間の認識の差があることがわかった。また、改正河川法以降の河川政策の評価についても河川官僚間においても認識の相違があることがわかった。なお、成果の一部は「改正河川法の成立過程―河川官僚のオーラルヒストリーを手掛かりとして―」と題して研究会で報告をおこなった。 第三に、日米における公共政策をめぐる合意形成に関する資料収集および資料分析をおこなった。米国における合意形成の研究と実践の一部を資料収集し、それらを「調整主体」に着目して資料分析をおこなった結果、「ファシリテーター」、「コーディネーター」として社会のなかに「制度化」されていることがわかった。他方、日本における研究や実践においては、「ファシリテーター」、「コーディネーター」が「調整主体」として導入されている事例もあるが、以前としてアドホックであり、「制度化」されていないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、公共政策をめぐるステイクホルダー(利害関係者)間の対立と調整について、川辺川ダム事業、八ッ場ダム事業、諫早干拓事業、カリフォルニアの水事業の4つの事例を調査し、既存の合意形成研究を批判的に検討した上で、合意形成論として、新たに位置づけることにある。初年度は、川辺川ダム事業および八ッ場ダム事業について、関係者の聞き取り調査を実施し、2つの事例を比較することによって、公共政策をめぐる対立と調整のメカニズムを解明する手掛かりをえることができた。また、日米の公共政策をめぐる合意形成に関する資料を収集し、「調整者」および「調整者の制度化」という概念に基づき資料分析を実施することにより、日米間の研究および実践における相違点を指摘することができた。以上により、「研究の目的」を「おおむね達成できた」と評価することができるであろう。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の今後の推進方策は次の通りである。 第一に、公共政策をめぐる対立と調整のメカニズムを解明するために、主に諫早干拓事業とカリフォルニア州の水事業に関する資料収集および資料分析を実施する。諫早干拓事業については、できるだけ現場に足を運び、当事者に取材をおこない「生の声」を収集する機会を増やすことに努めたい。ただし、事業は係争中であるため、聞き取り調査が困難な場面もでてくると考えられるが、社会的関心が高いため多くのマスメディアを通した資料収集は比較的容易であると考えられる。また、カリフォルニア州の水事業の事例は、30年以上にわたる事業であるため、資料や新聞記事の収集が容易にできると推測できる。そこで、水事業の調整者となったカリフォルニア州立大学の関係者への聞き取り調査を中心に公共政策をめぐる対立と調整のメカニズムの解明に努めたい。 第二に、日米における公共政策をめぐる合意形成の研究書、事例報告書は膨大にあると考えられるため、今後も「調整者」という概念と「調整者の制度化」という概念を手掛かりに資料収集、資料分析をおこなう。米国における公共政策の研究および実践において「ファシリテーター」または「コーディネーター」という概念と「その制度化」がいかにして進展したきのかを解明する。他方、日本における公共政策の研究において、「調整者」概念がいかに位置づけられたのか、また、実際の現場において「調整者」はどうような役割を担ったのかを具体的な事例を手掛かりに明らかにしたい。 第三に、以上の調査研究を踏まえた上で、その成果の一部を政治学会または公共政策学会において公表していきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費の使用は主に「旅費」、「物品費」、「その他」に分けられる。 第一に、「旅費」は主に諫早干拓事業に関する訪問調査とカリフォルニア訪問調査に使用する予定である。諫早干拓事業に関しては長崎県を中心に佐賀県、福岡県、熊本県への訪問調査を実施する。またカリフォルニア訪問調査は、一週間程度滞在し、主にカリフォルニア州立大学への聞き取り調査および地元図書館での資料収集を実施する。 第二に、「物品費」は主に公共政策をめぐる日米の合意形成に関する書籍購入費として使用する予定である。特に「調整者」および「調整者の制度化」に関する必要文献に絞って資料収集を実施する。 第三に、「その他」では、所属大学に所蔵していない文献の他大学からの取り寄せおよび論文の複写費として使用する予定である。また、カリフォルニア訪問調査による聞き取りデータのテープ起こし代としても使用することを予定している。
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