研究課題/領域番号 |
24730124
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
礒崎 敦仁 慶應義塾大学, 法学部, 講師 (40453534)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 北朝鮮 / 金正日 / 政治体制 |
研究概要 |
研究初年度となる平成24年度は、朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)が冷戦終結をいかに認識してきたかを中心に検証を進めた。北朝鮮が、1980年代末の東欧革命を注意深く見守っていたことは想像に難くない。しかし、北朝鮮の公式メディアは、国内にその事実を隠蔽する必要性からも、きわめて限られた報道しか行わなかった。また、そのような限定的な報道も、政変が発生してから何日も経過した後に論評抜きで報じられたに過ぎなかった。それら論調を丹念に追うとともに、『金日成全集』や『金正日選集』(増補版)など新たに公刊された資料で冷戦終結に対する認識が読みとれる部分について検証を進めた。関連して金正日政権末期や現状に関する論文を複数公刊した。 一方、国外搬出が禁じられている新資料の発掘にも努めた。一部入手できたものについては、脱北者(北朝鮮離脱住民)等への意見聴取結果とともに補完的に活用した。金日成死去後の1994年以降についての検証は不十分であり、引き続き作業を進める必要がある。 各資料では、ソ連・東欧の「悲惨な末路」について具体例を挙げて論じられ、危機感を煽りながら社会主義体制固守の必要性について繰り返し説かれている。ソ連・東欧の社会主義と区別するための「われわれ式社会主義」なる概念は、早い段階から多用されるようになった一方、体制護持のために「先軍」が必要だとの論理が表面化するのにはさらに時間を要した。1990年代初めの段階においては、後に「先軍」概念へと発展する基礎となる「軍民一致」運動や「軍重視思想」に触れるものはわずかであったことが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題申請時には想定していなかった重要な新資料を入手することができたため、深奥でオリジナリティのある分析が可能となった。資料が大部に及ぶためさらに時間を要する側面があるものの、初年度に複数の論文を公刊することができ、研究はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度で進めた北朝鮮の冷静崩壊認識に関する検証作業を継続する。但し、初年度において北朝鮮政治体制に関する重要な新資料を入手することができたため、『労働新聞』や金日成・金正日の著作といった従来資料以上に重点を置いて検証を進めていきたい。 さらに、第二年度となる平成25年度は、冷戦終結に対して、北朝鮮がいかに体制崩壊の危機を乗り越えようとしたのかをも検証する。まず、党よりも軍を重視する「先軍」体制への転換過程について考察する。冷戦終結に対する危機意識から、朝鮮労働党を中心に据えた体制運営の在り方に変化が生じた。金日成主席存命中に最高司令官ポストが金正日へ禅譲され、その後には主席制を廃止して国防委員会中心の国家運営が図られた。これら冷戦終結と「先軍」体制確立の因果関係について、最新資料とともに多様な脱北者、当局者の証言を丹念に突き合わせることで実証していく。北朝鮮側の一次資料については、従来資料からの書き換えの有無、脱北者への意見聴取については彼らの証言内容が包含するであろうバイアスを十分に考慮する。また、各国研究者の見解を十分に消化し活用したい。
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次年度の研究費の使用計画 |
初年度は新資料の検証に集中し、申請時よりも国外出張費用の支出が低額となったため、研究費を有効活用すべく、一部を第二年度へ持ち越すこととなった。 本研究は、北朝鮮政治体制論を文献精査の結果と脱北者等への聴取結果の二方向から突合することを特徴の一つとしている。研究に必要な文献、とりわけ北朝鮮の一次資料については、国内外の大学図書館等で閲覧できるものがきわめて限られており、取り扱い書店も少ないため、「消耗品費」の中でもとりわけ北朝鮮書籍の購入予算額がやや大きくなる。英文書籍の購入は、主に分析枠組み模索のためである。 また、地域研究の一環として、聞き取り調査を中心としたフィールドワークも欠かせない。南北朝鮮や米国等における脱北者、研究者等への聞き取り調査を行なう必要がある。 さらに、これまでの約5年間に及ぶ韓国及び中国での在外研究の経験と人的ネットワークを生かし、最大限費用を抑えるよう努力するものの、脱北者等への聞き取り調査には少額なりとも謝礼が発生するケースがありうる。
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