最終年度は、国内外で入手した多用な資料を用いて冷戦終結が北朝鮮政治体制に与えた影響について総論的に整理するよう努めた。具体的な成果としては、日本比較政治学会等における発表のほか、本研究課題から派生した内容について論稿を公刊した。 北朝鮮では1948年の建国以来、金日成、金正日、金正恩と親子三代にわたる統治が続いている。金正日政権(1994-2011)は、冷戦終焉後も一貫して「社会主義」を掲げつつも、三代世襲を成し遂げ、金正恩政権(2011-)に至っている。1990年代には「崩壊」、体制移行ないし体制転換の可能性について議論されることもあったが、その後20年間、東欧や中東諸国で発生したような市民革命も軍事クーデタも発生しなかった。そればかりか、中国やベトナムのように改革開放の道を選択することもなかった。そのため、体制長期化の背景解明を大きな問題意識として、冷戦終結前後の各国の教訓が北朝鮮政治体制に与えた影響について検証を進めたのである。 最終年度は、北朝鮮研究の全体像を概観し、同国体制をめぐる従来の「モデル」分析の問題点をも明示しようと努めた。その上で、個人支配体制概念の金正日体制への適用を試み、さらに北朝鮮独自の論点を中心に、体制長期化の特徴を抽出した。しかし、研究の過程でいくつかの重要資料を入手したことや問題設定が大きかったこともあり、北朝鮮政治体制の研究を継続する必要性を感じた。
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