本研究は、明治政治思想史を「社会」という用語の成立過程という視点から捉え直すことを目的とし、その用語の成立に大きな影響を与えた原語として英語の"society"に加え、江戸時代から明治初期の学問に大きな影響を与えたオランダ語の"maatschappij"を、伝統的背景として、伊藤仁斎、荻生徂徠における「社会」観とを重要な考察要素とし、明治時代における社会論と統治論との位相を明らかにすることを目的として、進めてきた。 2015年度は特に、8月にソウル大学で開催された第3回東Asia若手歴史家Seminar、12月に成均館大学で開催された2015韓日政治思想学会共同学術会議において、2014年度までの研究の途中成果を公表し、専門家からの意見を伺いながら、さらに研究を進展させる作業を意識的に行った。 両学会での学術交流においては、societyに相当する概念が明治以前にはなかったという「常識」をいったん括弧に入れ、societyに相当する現実が江戸時代にもあり得たという観点を導入する本研究の視座について、19世紀韓国においても、同様のことが言えるという示唆を受けた他、多くの「社会論」が想定するのとは異なり、西洋においても、societyは多義的な概念であり、「社会」と比較すべきsociety概念自体を固定的に捉えるわけにはいかないという知見を、参加者との間で共有した。 現在は、以上のような成果を活字化すべく、まとめている最中である。
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