本研究課題の目的は、経済・社会構造の脱工業化に伴って顕在化してきた「新しい社会的リスク」への政策対応に、有権者の政策選好の多様化を反映して多元化の進む政党政治が与えてきた影響を探り、その作業を通じて、脱工業化の下での政党競争空間の変容を理論化してきた政党システム論の研究成果を福祉国家研究に応用し、近年の福祉国家の再編成の規定要因を明らかにすることである。 2015年度は主に先進工業民主主義諸国における労働市場政策の変化に焦点を当てて研究を進めた。具体的には、OECD加盟21ヵ国における雇用保護法制の強度と、雇用能力醸成型積極的労働市場政策(職業訓練制度向け公的支出と直接雇用創成向け公的支出)を分析し、欧州政治学会(European Consortium for Political Research)とアメリカ政治学会(American Political Science Association)という二つの国際学会においてその成果を発表した。この研究では、労働市場政策をめぐって先進工業民主主義国の政党は再分配次元のみなら社会的価値の次元でもその政策的位置取りを争っていることを明らかにした。すなわち、雇用保護法制(解雇規制)の強度についていえば、再分配軸上の左派でも社会的保守の立場の政権は解雇規制を強める方向に働く一方、社会的リベラルの立場の政権はそういった効果を持たないことが分かった。他方、雇用能力醸成型積極的労働市場政策についていえば、再分配軸上の左派かつ社会的価値軸上の保守の政権はこうした政策向け支出に効果がない一方、社会的リベラルの政権はこうした政策向け公共支出を統計的に有意に増やす傾向があることを明らかにした。
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