本研究の目的は、近年多くの論者・研究者から注目を集めている「政治(的)信頼」の概念の操作的定義の妥当性について、サーベイ実験を用いた手法より実証的に検討することである。特に本研究で重視したのは、回答尺度の妥当性である。この点に着目した理由は2点あげられる。第1は、回答尺度の妥当性に関する実証研究の欠如である。意識調査を行う際に質問文を精査すべきという指摘は社会調査の教科書などでしばしば見られる。しかし回答尺度の妥当性については、ほとんど検討がなされていない。 第2は政治信頼を測定する際の回答尺度の混乱である。政治信頼の回答尺度は、実は、2点尺度、5点尺度、11点尺度というように、研究者間で大きく異なっている。そしてこの現状が信頼研究の混乱を招く一助となっている。それぞれの回答尺度がいかなる特徴をもつのかを明らかにする理由は、この点にも求められる。 以上の問題意識に基づき、本研究では、2012年度に1回、2013年度に1回、合計2回にわたって、全国の有権者を対象とするウェブ意識調査を実施した。ただし、この意識調査は、有権者の政治意識を明らかにするだけではなく、信頼の操作的定義の妥当性を実験的手法を用いて検証するという目的もあわせもつものである。 分析の結果、大きくは以下の3点が明らかとなった。第1に、回答尺度の相違は回答分布を直接的に変化させる。第2に、回答尺度の相違は、変数間の関連性も変化させる。第3に、ただし、回答尺度の効果は常に一定というわけではなく、時代や文脈が異なると変化する可能性がある。 なお、本研究で実施した意識調査は、上記の通り信頼に関する調査に限定されない、一般的な政治意識調査という特徴も有する。信頼研究という側面以外にも、たとえば一般有権者の政党支持に関する分析など、本研究の応用可能性は広く、その点にも意義があるといえる。
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