本研究の最大の成果は、タイ政府内の各政府機関の内部資料に基づいた実証研究を行ったことにある。スワンナプーム国際空港建設が主として日本融資プロジェクトであったが故に、研究実施には日本の各関係者の協力および日タイ双方の資料整合性検証が極めて有効であった。研究資料のデジタル化、グローバル化が進む中でも、本研究はアジアの現代政治研究において、日本語を重要なツールとして用いることが有効であることを示す研究であり、タイ研究を超え、日本外交史、アジアの国際関係分析にも大きな意義を持つものと考える。 全体の成果について以下三点を挙げたい。第一に、空港建設における防災ポリティクスについて、治水をめぐる中央地方間の政治的対立を明らかにした。具体的には、灌漑局と運輸省の対立およびバンコク都政府とタイ中央政府の対立さらには王室の関わりについて、「バンコク二空港とタイ2011年大洪水」と題し発表した。 第二に、国際空港建設の鍵となる政治的対立軸として首都行政府対中央政府であることを明らかにし、同構造について、他の東南アジアとの比較分析の成果を、’A Tale of Two Governors - Gubernatorial Authority and Limits in Bangkok and Jakarta’および“Politics of a “Sandwich City”と題し発表した。 第三に、1970年代から2010年代にかけてアジアの秩序構造の変化に伴う、バンコクの地政学的な位置付けの変化がもたらした政策決定過程への影響について、政府の安全保障担当部門と経済担当部門の間の対立と協力を分析し、“Thailand and the Changing Geopolital Dynamics of Southeast Asia”と題し発表した。 第四に以上の研究成果発表を土台に単著の原稿を準備した。
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