研究課題/領域番号 |
24730151
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 高千穂大学 |
研究代表者 |
五野井 郁夫 高千穂大学, 経営学部, 准教授 (50586310)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | グローバル・ジャスティス運動 / 直接民主主義 / グローバル市民社会 / 国際規範 / 社会運動論 / 文化 / 社会運動のクラウド化 / 類縁集団 |
研究概要 |
平成24年度は、本研究の特色の一つであるグローバル・ジャスティス運動の担い手たる類縁集団による、インターネット上のソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下、SNS)を最大限に活用した今日の社会運動と国際規範の形成について、申請者は「社会運動のクラウド化」という新たな概念を提示し、その理論化を行った。 反WTO運動や重債務救済運動などのグローバルな格差是正運動は、組織化に際しておもに参加者間でのeメールやインターネットサイトを活用したのに対して、近年、世界中に波及した「アラブの春」や「オキュパイ運動」、脱原発運動は同潮流の延長線上に、YouTubeやfacebook、twitterといったSNSを効果的に活用している。この「社会運動のクラウド化」によって既存の動員インフラをウェブ上にアップすることで、誰もが情報にアクセスできる交流の場を生成し、情報が並列化され格段に安いコストで動員が可能になるグローバルな動員の趨勢を「社会運動2.0」として理論的に説明した。 また近年のグローバル・ジャスティス運動の主な担い手である類縁集団が、固定的な団体や党派性を放棄し一般市民への動員を拡大することで規範形成に寄与したプロセスのフィールドワークも行った。とりわけ本年度はグローバル・ジャスティス運動のなかでも、オキュパイ・ウォールストリート運動や先進諸国での脱原発運動の世界中への伝播、運動組織の運営と構造を明らかにすべく、それらへの参与観察によって運動のメカニズムを把握し、社会運動のクラウド化が可能にした政治表現にかんする、新たな知見を獲得した。 くわえて多くの学会で報告を行う機会を得たとともに、グローバル・ジャスティス運動による国際規範形成の影響力と多様な性質を捉えつつ、類縁集団と非暴力直接行動による議会政治への接続を理論化した論文や著作の刊行にも成功し、研究計画以上の成果を上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成24年度は当初の計画以上の研究の進展が可能となった。グローバル市民社会論とグローバル・ジャスティス運動の理論枠組みを発展深化させるという、平成24年度の当初の研究計画にくわえて、類縁集団ベースでのグローバル・ジャスティス運動の生成過程を、歴史的・理論的な双方の視座から分析と史料収集、フィールドワークを積極的に行うことで、ソーシャル・ネットワーキング・サービスを媒介としたグローバル・ジャスティス運動の理論化をさらに進めることが出来た。 とりわけ先進諸国におけるグローバル・ジャスティス運動の展開例である脱原発運動のフィールドワークを行い、旧来の党派や労働組合ベースの社会運動やクラスターが固定的な「新しい社会運動」とは異なり「社会運動のクラウド化」によって可能になった類縁集団ベースでの「ポスト-新しい社会運動」である旨を分析し、「社会運動2.0」として理論化を行うことが出来た。 さらに、当初はグローバル・ジャスティス運動の一事例として申請者が調査をしていた、アメリカのニューヨーク発でグローバルに伝播したグローバルな反格差運動・オキュパイ・ウォールストリートも、旧来の社会運動とも連合した5月1日のニューヨークの「Occupy Mayday」や、カッセルで5年に一度開催される政治芸術の祭典DOCUMENTAでの一連の来場者参加型展示、2012年9月17日の一周年アクションに参与観察をすることで、グローバルに連帯した市民からなる類縁集団による社会運動が世界同時多発で共時的に行われていることにくわえて、旧来型の社会運動との連携も生じていることを発見した。 また研究成果の一部についても、国際学会・国内学会報告計7回や日本記者クラブでの研究発表、論文4本、書籍1冊、ニューヨークタイムズやNHK等の国内外メディアや全国紙の新聞論説への寄稿など、順調に発表し順次公表を行うことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、これまでの労働集約型や階級による古典的社会運動やA. メルッチやA. トゥレーヌらの「新しい社会運動」とも異なる、カウンターカルチャーやコンテンポラリーアートといった規範変容的文化を核としたアート・アクティヴィズムによる「ポスト-新しい社会運動」とも呼ぶべき現象のグローバルな展開について、とくに文化と芸術の側面からの理論化を本格的に行う。 くわえて過去のグローバル・ジャスティス運動との継受関係について、現在からみて、世界と日本のグローバル・ジャスティス運動の先駆とされるさまざまな国家横断的な社会運動を分析する。実際に「ベ平連」等の反戦平和運動の当事者へのインタビュー調査も予定している。今日のグローバル・ジャスティス運動へとつながる過去の日本と世界の社会運動の系譜をたどることで、現代の社会運動論との連続性を見出すことも課題としたい。 これらと並行して、引き続き類縁集団の動態把握のための資料収集とフィールドワークを行う。とりわけ類縁集団ベースでのグローバル・ジャスティス運動のケーススタディとして、オキュパイ・ウォールストリートを中心としたグローバルな反格差運動、先進諸国で国民投票を喚起し一部の国では実現した脱原発運動にくわえて、ヘイトスピーチに抗するANTIFA(反ファシズム運動)などの草の根での直接民主主義的な市民運動たる「院外の政治」が「院内の政治」にどのように影響を与えるのかという、直接民主主義の間接民主主義への接続を調査することで実態把握に努め、今日のグローバル・ジャスティス運動が民主主義論理論の結びつきを、理論と事例研究の双方の架橋によって明らかにする。 なお直接民主主義としてのグローバル・ジャスティス運動の展開の研究成果について、日本政治学会やAAG(Association of American Geographers)での報告が決定している。
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次年度の研究費の使用計画 |
今回申請した研究課題は以前の研究課題と同様に、研究資料においては二次資料のみならず、一次史料を随時必要とするもの、すなわち世界中の各地域に赴き、史料収集とインタビュー調査にもとづくフィールドワークを必要とするたぐいの研究課題である。 これらの研究によって得られた知見にかんする研究成果の発表の場として、国内・海外学会での報告による成果の公開を積極的に行なうため、旅費に研究費の多くが使用される予定である。具体的には国内では日本政治学会での報告ならびに、海外の学会として今年度はAAG(Association of American Geographers)の研究大会で報告予定となっている。 さらに、国内ならびに海外の大学でのワークショップ、シンポジウムへのエントリーや、規範変容的文化としてのカウンターカルチャーやアート・アクティビズムの現状把握のため、世界各地の国際展へのフィールドワーク、そしてオキュパイ・ウォールストリートなどの反格差運動の動態調査、資料収集を予定しているため、これらも国内・海外渡航費として旅費に多くが割かれる予定である。 くわえて、研究によって得られた知見や研究成果については雑誌や書籍等の媒体で随時発表を行う予定であるため、それら媒体に掲載された研究の成果物を広く浸透させるためにも抜き刷り等を作成するために、研究費を使用する予定である。 また、プリンターやパソコン備品類、書籍などの物品購入にも随時研究費が使用される予定である。
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