研究課題/領域番号 |
24730152
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
上地 聡子 早稲田大学, 国際教養学術院, 助手 (40580171)
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キーワード | 沖縄帰属問題 / 日本「復帰」支持 / 日本主権 / 沖縄人連盟 / 在日沖縄人 / 生活権 / 「第三国人」 |
研究概要 |
関西の沖縄人と朝鮮人に関する調査: 本年度は、「復帰」支持と米軍占領統治・実践という当初の計画を修正して、関西地区の沖縄人と朝鮮人の関係について調査をはじめた。 関西に着目した理由は、在東京沖縄人の「復帰」支持背景を調査する過程で、関西沖縄人コミュニティの規模が東京を大きく上回っている事実(1947年時点の「沖縄人連盟」会員数は東京・神奈川合計13,231人に対し大阪・兵庫32,790人)と、関西の沖縄人が「沖縄人」呼称に対して潜在的に反発していた可能性に気づいたためである。同時に、終戦直後の朝鮮人最大の集住地域も関西地方である点に着目し、①在東京沖縄人の帰属意識に対する関西地方の影響、②GHQ下朝鮮人の政治社会的状況が沖縄人の日本「復帰」論理を形成した可能性、の2点を明らかにすべく、関西における朝鮮人と沖縄人の社会生活上の接点を調査しはじめた。 7月の報告で朝鮮人との関連という仮説を発表し、10月初旬に関西方面へ出張を行う。関西沖縄人の研究者らと交流を持ちつつ、大阪・兵庫の沖縄人集住地区(大正区・戸ノ内)のフィールドワークを行った。また1960年代より兵庫県に在住し、大阪・兵庫の沖縄関係活動の重要人物である方の自宅にて蔵書整理を手伝い、本研究に関連すると思われる書籍を多数譲り受けた。 こうしたフィールドワークと並行して、1990年代に大阪・兵庫で行われた聞き取り記録や1946年3月に行われた朝鮮人・中国人・台湾人・琉球人帰還希望調査に関する資料、GHQ統治下の在日朝鮮・韓国人史、大阪社会労働運動史、沖縄系機関紙のなかの朝鮮人表象など多方面から一次・二次資料を調査している。しかし両者の関係について直接的に記された文献資料の多くないことがこれまでの調査で明らかになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度より関西方面の沖縄人および朝鮮人に対する調査へ新たに着手したため、当初予定していた「在東京沖縄人の政治活動に関する日本政府・GHQ側の資料調査」や、昨年度に提出した今後の推進方策の「沖縄・東京・ハワイ3か所における統治状況の違いを日本、沖縄の占領政策の観点から調査」計画と比較すると、かなりの逸脱/遅れとも受取れる。そのうえで「やや遅れている」とした理由は以下のとおりである。 まずこの変更は、在東京沖縄人のみをもって日本全体の沖縄人とその「復帰」背景を代表させることの危険性を克服する上で重要な変更であり、朝鮮人という存在を補助線として、当該時期の政治社会状況(「共産主義者」「第三国人」というレッテルと生活権の危機が直結する状況)を推察する上でも不可避な変更である。この点において研究課題の「占領下の「復帰」支持」というテーマ自体から大きく逸脱しているとは考えていない。 また今年度は、当時の朝鮮人に対するGHQ/日本政府の政策(の転換)の調査を進めるうえで占領統治下の対「非日本人」/「非外国人」政策の整理に着手し、朝鮮人と沖縄人の接点を探る過程で国会の議事録調査も開始した。どちらも継続中であるが、日本政府・GHQ側の政策への着目は、アプローチと使用資料が異なるとはいえ、当初の研究に沿ったものといえる。 研究外の理由としては非常勤としての教育活動が挙げられる。今年度より週1回非常勤講師として演習を担当することになったが、とりわけ前期は本研究と直接関係のないテーマでの授業運営であったため、授業準備に想定以上の時間が割かれた。
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今後の研究の推進方策 |
5月から7月までは「戦後初期の在大阪・兵庫沖縄人と朝鮮人:日常、政治運動、政策レベルでの接点と類似点」というテーマで資料収集を行う。具体的には6月初旬に大阪人権博物館『紀要』を中心に沖縄関係団体と朝鮮人連盟との関係に関する諸論文の調査を行い、当該時期の朝日新聞関西版(1945年~1951年)の沖縄(人)朝鮮(人)関連の報道記事を併せて調査する。6月後半に「アジア民衆史研究会」にて同テーマで報告する。 8月から10月は、中断している占領統治下の対「非日本人」/「非外国人」政策の整理と国会の議事録調査の再会を中心に調査を行う。10月の時点で同テーマを論文にまとめる見通しがたった場合は年末にかけて執筆を行い、『琉球・沖縄研究』もしくは『アジア民衆史研究』に投稿する。 ただし「研究実績の概要」でも述べたとおり朝鮮人と沖縄人の政治・社会上の接点に関する直接的な資料は官憲のかぎりほとんど見当たらず、この時点で論文を構成するだけの史資料を収集できるかは不透明である。その際は、①間接的な資料を組み合わせ、研究ノートとして『琉球・沖縄研究』へ投稿するか、②在東京沖縄人の「復帰」支持に関する論文の一部として扱い、本年度末提出予定の博士論文の一部として纏める予定である。 1月から2月中旬までは昨年度の推進方策にて報告していた、①在日と在沖の沖縄人との連携と温度差に関する考察と、②GHQ進駐軍に通訳兵として勤務していたハワイ日系(沖縄系)二世兵士の資料調査を行う。その結果をもとに2月中旬から3月初旬にかけて必要に応じて沖縄県公文書館、国会図書館にて追補の資料調査を行い、年度末までは纏めと執筆期間とする。
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次年度の研究費の使用計画 |
第一に昨年度は当初、在東京沖縄人の政治活動に対する日本政府・GHQ側の資料調査を予定していた。そのため資料確認・収集の必要が生じた場合は、アメリカ国立公文書書記録管理局(NARA)での調査も検討していた。しかしながら研究計画を修正し、戦後関西地区における沖縄人と朝鮮人の調査を新たに開始したため、予定していた雑費/消耗品のうち外国出張に伴う支出が発生しなかった。昨年度に実施した国内の調査旅行(関西・沖縄)も、資料収集というよりは現地でのフィールドワークや他研究者との意見交換が主となったため、移動や資料複写、資料郵送といった支出がほとんど無かった。 第二に上記の研究変更に伴い、一次史料の検索・確認・複写・入力整理という当初想定していた作業を行わなかった。その結果、予定していたデータ入力・整理の作業が不要となったため、資料整理・データ入力者に支払うための手数料が今年度に全額繰り越されている。 雑費に計上されている昨年度からの繰り越しと資料整理・データ入力の「手数料」の一部を海外での調査予算に充当する。今年度後半、ハワイ日系(沖縄系)二世兵士の動態について調査を行う予定であるため、ハワイの米軍関連の資料館またはワシントンのアメリカ国立公文書書記録管理局(NARA)を訪問する必要が出てくる可能性が高い。ただし、今年度前半は関西沖縄人に関する資料のまとめを予定しているため、データ入力・整理者に支払う手数料の支出もある一定以上見込まれる。その際は「手数料」に代わり「消耗品」予算からの支出を検討する。 また本年度はこれまで集めてきた資料の整理・入力・まとめ等の作業が多くなることが予想されるため、作業効率の向上のため、一昨年度予算に計上しつつ購入を見送っていた大型モニター、携帯スキャナー、プリンターの購入を予定している。また旅費は大阪と沖縄への調査旅行を1回ずつ予定している。
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