研究課題/領域番号 |
24730155
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
村上 友章 立命館大学, 立命館グローバル・イノベーション研究機構, ポストドクトラルフェロー (80463313)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | アメリカ / イギリス / ロシア / 中国 / フィリピン / 台湾 |
研究概要 |
平成24年度の研究成果は、第一に、高碕達之助文書の整理を進め、その分析に着手したことである。高碕文書は当該研究テーマを考察する上で、重要な資料を含んでいるが、必ずしも充分な整理は行われていなかった。その目録化作業に目処がついたことは今後の研究を進める上で極めて有意義であった。実際にも、それらの分析を通じて、従来は知られていなかった実業家・政治家の高碕達之助の多岐にわたる活動を明らかにすることができた。 第二に、高碕文書以外の戦後経済外交に関する資料を多く収集することができた。外交史料館所蔵の新規公開文書や国会図書館憲政資料室所蔵資料(「加瀬俊一文書」等の新規公開文書)をはじめ、東京海洋大学、日本工業倶楽部会館などで貴重な資料を収集した。 第三に、関係者へのインタビューを通じ、貴重な証言を得ることができた。高碕の元秘書や外務省関係者など、12名にインタビューを行い、来年度も継続予定である。 第四に、以上の資料収集とその分析の成果の一部を、「『国境の海』とナショナリズム―日ソ間昆布採取協定と高碕達之助」(『国際政治』170号所収)として発表した。本論文では、歯舞群島周辺海域における日本人漁民による昆布採取を可能とした、日ソ間協定の成立過程を考察した。この協定締結に大きな役割を果たした高碕は、ユニークな領土返還構想を抱き、当初は、日ソ平和条約締結を目指していたが、日ソ間の関係悪化によりその可能性が閉ざされていったプロセスを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、実業家出身の政治家・高碕達之助の行動とその論理を、「国際人」・「財界人」・「戦前人」という3つの側面から分析することを通じて、戦後復興と経済外交の関係を明らかにせんとするものである。1年目の本年に達成できたことは、第一に、これら3つの側面に関連する資料収集をほぼ終える事ができたことである。もっとも、海外での資料収集は次年度の課題である。また、このように、従来、収集して来た各種資料の読み込みと分析を一通り行ったことは、第二の成果である。 第三に、研究の一部を先述の通り、論文として発表することができた。そこでは、高碕が「財界人」として、日本の水産界の利益を代表しながら、「国際人」ならではの共産圏とのプラグマティックな外交を展開する過程を明らかにした。加えて、本稿では、高碕のイニシアティブの背景に「戦前人」らしいナショナリズムをも発見することができた。次年度は、こうした高碕の外交に見られたプラグマティズムとナショナリズムの位相をも分析し、アジア・アフリカ諸国を中心に国際的にもナショナリズムの高揚が見られた戦後復興期に、経済外交が果たした役割を重層的に明らかにしたい。
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今後の研究の推進方策 |
以上の研究経過をふまえ、今後は、本研究テーマを単著にまとめたいと考えている。そのためには、以下の3つの作業を行いたい。第一に、今年度は実施できなかった海外での資料収集である。現在、イギリス、アメリカ、中国東北部、フィリピン等への調査旅行を計画中である。 第二に、収集した資料や証言の中から高碕の行動を再構成し、その論理を明らかにする。その作業を通じて、従来理解されていた以上に立体的な経済交渉を行っていた高碕の行動が明らかにされるであろう。 第三に、こうして明らかにする高碕の経済外交の実相を、日本政治/経済外交史の歴史的文脈の中に位置づけ直し、それが有した意義を探る。この作業を通じ、戦後復興の中で経済外交が果たした役割に対して、新たな歴史像が与えられるであろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、第一に、未だ収集できていない参考資料(とくに満洲関係資料)の購入に使用する。第二に、国内外の調査旅行(佐久間ダム・御母衣ダム等や英米の公文書館)に伴う交通費に使用する予定である。
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