本研究では、「アジア太平洋大気環境協働フォーラム」を構成する取り組みにある、①自発的な政治アクターの協力、②国際規範の共有、③合意形成の過程を、ネットワークの形成・変容の分析から明らかにする。 調査と分析から解明されたことは、まず、大気汚染問題というイシューによってネットワーク化した政府、国際機関、科学者、その他研究者といった異なるアクターが相互のつながりを深め、活動文書(Instrument)に合意したことである。その過程で、アクターのつながりは、2つの方向があった。一方で、「東アジア酸性雨モニタリングネットワーク」でのハブとなる中心アクター(事務局、ネットワークセンター、日本)が調停役として、交渉参加への障害を持つアクター(インドネシア、マレーシア、韓国)の孤立を防ぐ役割を果たした。ハブ以外に、議長国としての十分な役割を果たしていたのはモンゴル、フィリピンであった。加えて、リソース・パーソンが議論の橋渡しに貢献していた。これらは後に、全参加国による活動文書の合意・署名へと結びついた。 他方、非協力の構図も解明された。先述のマレーシア、インドネシア、韓国、そして中国の位置である。ネットワーク内でアクターが孤立すると、交渉の固定化、合意への障害をもたらす。そのため、共通の努力が制限されてしまう。これがまさに現在の東アジアの大気汚染協力枠組みが抱える協力への課題である。この点はこれまで推論で指摘されてきたが、量的研究はなかったもので、本研究から初めて実証された。ネットワークの協力・非協力の構図を示すことは、今後の学術的な環境交渉研究の進展にも、東アジアの協力の政策提言へも大きく貢献することとなる。 分析結果や関連研究は日本国際政治学会やアメリカ国際政治学会で論文報告された。学会での議論をあわせて論文を修正しており、現在は日本語・英文論文ともに投稿の最終段階にある。
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